オカルト・怖い話

『夜神楽』怖い話シリーズ57

2020年7月16日

ひなびた温泉宿で出会った者との不思議な怖い話・・・

『 夜神楽』

ひなびた温泉宿の露天風呂・・・

少女と見違えてしまうほどの美しい彼に出会った・・・

「夜神楽を見に来られたんですか?」

と彼は言い、一緒にどうかと誘って来て・・・

今回は不思議で怖い怪談話『 夜神楽』をお伝えします。

怖異 恐子
皆さん、こんにちは・・・

毎度おなじみ心霊界の石原さとみこと、コワイキョウコです・・・

日本の舞って、何だか神秘的な美しさがあったりしますよね・・・

夜の闇に美しく映える神楽の舞・・・

でも、その神秘的な雰囲気の中には・・・

妙な不気味さもあったりする気がします・・・

それでは怖い怖い怪談話・・・

『夜神楽』

どうぞお楽しみください・・・

※このお話は7分ほどで読むことができます。

『夜神楽』怖い話シリーズ57

 

高校3年の冬。

「ボード行こうぜ、車出すからさ」と梶が言って来た。

「何時?メンバー誰よ?」と聞くと・・・

 

「クリスマス、俺とおまえと貴美」

 

ヤツの頭にコンパチ食らわせた。

 

「どアホ。二人で行って来い」

 

別に拗ねてる訳じゃないが、特別の日に大切な人と一緒にいたいのが女の子の気持ち。

それを察してやれない程、鈍くはない。

しかし、この年で、そう言う日に一緒に過ごせる相手が家族と言うのも、かなり侘しい。

気分転換に、金剛にある温泉『天狗の湯』へ出かけた。

 

金剛は、大阪南部で奈良・和歌山の県境にも程近く、山間には小さいが温泉場が幾つもある。

中でも一番ひなびているのが天狗の湯。

バイクに乗り出してからは、遠出する程暇はないが、少し走って気晴らししたい時によく行く所だ。

満員なら日帰りでと思っていたが、折りよく空きがあったので泊まる事にした。

 

とっとと飯を済ませ、露天風呂で四肢を伸ばす。

月明かりの下、2・3日前に降った雪が梢に残り、それが風に吹かれてさらさら飛んで来る。

この季節ならではの風情だ。

もう30分もすれば、夕飯後の休憩を終えた人たちで、ここもいっぱいになるだろう。

それまでの贅沢な一時だった。

 

ふと背後に人の足音がし、ちゃぽんと誰かが湯に入った音がした。

何気に振り返った俺の目に、ショートカットで卵形の小さな色白の顔とほっそりした首、

優しげな肩の線が目に入った。

 

じょ、女性?!

混浴じゃなかったはずだが・・・

慌てて目を逸らした俺に、その人はくすりと笑って声を掛けて来た。

 

「僕は男です、ご心配なく」

「あ、失礼しました、済みません」

 

再度振り返り、謝りながら相手の顔をよく見てみた。

少女にも見紛うような、とはよくある表現だが、目の前の彼が本当にそうだった。

 

「いえ、いいんです。僕、女顔なものだから、良く間違えられるんです」

「済みません」

 

謝るしかなかった。

 

「夜神楽を見に来られたんですか?」と彼が聞いて来た。

「え?この辺でも夜神楽が見られるんですか?」

 

高千穂の夜神楽は有名で、そのうち行ってみたいと思っていたが、まさか金剛で夜神楽をやっていようとは思わなかった。

 

「ええ、今夜近くの神社で、もう二時間もすれば始まりますよ」

「へえ、行ってみたいな」

「じゃあ、一緒に行きませんか」と言う彼の誘いを、ありがたく受ける事にした。

 

宿の人に、お使い物にしたいのでと断って、地酒の一升瓶を二本分けてもらい、玄関前で待っていると程なく現れた彼がそれを見て、目を丸くする。

 

「お供えですか、二本共」

「いや昔、俺の祖父さんから、御神楽を見る時は必ず酒を二本持ってって一本は神様に、もう一本は神様を身に宿す舞い手さんに差し上げるもんだって聞かされてたので」

 

俺がそう答えると、彼はくすりと笑った。

 

「正解ですよ、それ」

 

雪の名残がまだそこかしこに残る道を、二人で並んで歩いた。

吐く息が真っ白になる。

街灯は何もなく辺りは真っ暗だったが、俺は夜目が利くから多少の月明かりがあれば十分だったし、彼は歩き慣れていると見えて危なげもなく歩いている。

「御神楽はよく見に行くんですか」と彼が聞いて来た。

「いや、舞楽は何度か見ましたが、御神楽は、本物を見るのは今日が初めてです」

「へえ、珍しいな。普通の人は、舞楽なんかあまり見ないでしょう」

「家の近くに、四天王寺楽所があるんで、目にする機会が結構あって・・・」

「ああ、それで」

 

そんな話をしながらしばらく歩いていくと、向こうの方にぼんやりと、橙色がかった丸い灯りが見えて来た。

高さは大人のひざ辺り。

街灯にしてはえらく低い位置にある。

何んだろうと思いながら歩いて行くと、光の正体は俺の胸程の背丈しかない小柄な巫女さんが持っている提灯の灯りだった。

俺たちの姿を認め、彼女はこちらにぺこりと頭を下げる。

 

「お待ちしておりました、どうぞこちらへ」

 

彼女の後に続き、俺たちは木造の古い鳥居を潜った。

とたんになんだか闇の濃さが一段と深まったようで、提灯の灯り無しにはほぼ何も見えない。

嫌な気配は感じないが、ここまで深い闇の中と言うのは全く体験した事がない。

その時、俺は彼の名も何も聞いておらず、自分もまた名乗っていない事に気が付いた。

彼も同じ事に気が付いたらしい。

 

「ああ、まだ名前も言ってませんでしたね。僕の名は加賀地三郎と言います」

 

一瞬、とまどったが、俺は自分の名を相手に告げた。

 

「よろしく」

 

差し出された手は、なんだか心地よい冷たさだった。

やがて、行く手がほの明るく見えて来る。

闇トンネルのような参道を抜けると、いきなり世界が広がった。

それは境内に幾つも焚かれた篝火のせいで、辺りはかなり明るくなっていた。

 

御神楽の舞台は6畳程の広さで、社の正面、境内の真ん中に設えられている。

結構な数の見物人が来ており、そこにカメラの三脚が一つも据え付けられていないのが不思議なくらいだった。

社務所へ酒を届けた後、拝殿に詣でていると、水色の袴を着けた男性が小走りに駆けて来て、

こちらに呼びかけた。

 

「三郎様、困った事になりました」

 

言ってから、彼は俺に気が付いたようで、後の言葉を言い淀む。

 

「どうしました?言って下さい」

 

三郎さんに促され、彼は声を潜めながら・・・

 

「御兄様たちが怪我をされまして・・・」

「兄さんたちが怪我?」

 

三郎さんは少し眉をひそめた。

 

「はい、ちょっと装束がもつれて、転倒したはずみに捻挫されまして・・・」

「わかりました。すぐ行きます。支度をしておいて下さい」

 

はい、と返事をして頭を下げ、袴姿の男性は向こうの方へまた小走りに駆けて行った。

こんな時に面倒をかけちゃいられない。

どうぞ、行ってあげて下さい。

そう言おうとした時だった。

三郎さんが真剣なまなざしを俺に向けて来た。

 

「・・・お願いがあります」

「はい?」

(な、なんだ?)

「御神楽を舞って下さい」

 

誰が?俺が?え?なんて?幾つもの言葉が頭の中で飛び交い、思わず即答していた。

 

「無理です」

「大丈夫。御神楽は知らなくても、舞楽を見た事があるのでしょう。それで十分です」

「そりゃ無茶だ。見るのと演るのは、大違いです」

「いいえ、あなたなら出来る」

 

どう言う訳だかわからないが、彼は断言した。

 

「兄たちが舞う事になっていた御神楽は、この神社縁の未婚の男性しか舞えないんです。僕はここの三男だから問題ないとして、今から僕の知り合いを呼んでも間に合わない。あなたには申し訳ないけれど、ここまで来て頂いたのも何かのご縁だと思います」

 

彼は必死だった。

正直、どうするか散々迷った。

 

「頼みます、僕と一緒に舞って下さい」

 

彼の懸命な言葉と、ひたむきな目に負けた。

 

「・・・俺はド素人ですよ」

「ありがとう!」

 

それから彼の後について行き、別棟の奥の部屋まで通ると彼の祖父、両親、湿布の匂いがする二人の兄と、何人かの人々が何やら話し合っているところだった。

そこで、彼がきっぱりと言い切った。

 

「彼に御神楽を舞ってもらいます」

 

とたんに人々の目が点になる。

当然だ。御家の御神楽に、どこの馬の骨とも知れない者をいきなり出演させると言うのだから。

しばらく沈黙があり、それを破ったのは、彼の祖父だった。

 

「・・・それでいいんだな」

「はい」

 

力強い応え。

そこから物事はフルスピードで展開し始めた。

俺たちが舞う事になった演目は『おろち』。

スサノオノミコトのヤマタノオロチ退治の話だ。

俺がスサノオで、彼がオロチを演る。

時間が無いのでざっと動き方を教わり、衣装を身に着ける。

 

普通は御面も付けるが、慣れていないと視界が確保出来ないので、今回はパス。

それから何とか通し稽古をつけてもらって、いよいよ本番と相成った。

目立たない場所から表へ出る。

篠笛や太鼓など、楽器の音がしている事に今の今まで気付いていなかった。

よほど緊張していたんだな。

我ながら可笑しくなる。

 

演し物は既に山神祭、国譲りが終わり茅の輪に入っていた。

とりあえず、舞台脇の幔幕の後ろに控える。

本来なら一つの演目が終わると、少し間をおいて次の演目に移るものだが俺たち二人の参加は予定外だったため、御神楽を舞う前に受けておくべきお祓いを受けていない。

そこで、今回は変則的に、舞台に上がる直前にお祓いを受ける事になった。

 

被り物を付けぬ俺たちが、拝殿の階を上がって行くと観衆の間から小さなざわめきが起こった。

彼の祖父が、張りの有る声で朗々と祝詞を上げる。

どうぞ、つつがなくこの大役を努められますように。

ただ、それだけを祈った。

さっき参道を案内してくれた巫女さんと、もう一人、同じぐらい小柄な巫女さんが、俺たちの前に盃に入った御神酒を運んで来る。

 

普段は喉につかえて飲めない日本酒が、この時は何故か素直に腹に納まった。

一礼して神前を下がり、左右の脇で、俺は烏帽子を、彼はオロチの被り物を付けてもらう。

こちらの用意ができてから、あちらを見ると彼の目が(行きますか?)と問う。

俺たちは小さく頷き合い、ほぼ同時に立ち上がった。

二人して拝殿から姿を現すと、観衆が再びざわめく。

 

真正面を向いたまま、階段をゆっくり下りた。

一足下ろす毎に、さっき腹に収めた御神酒が、暖かな力となって全身に広がって行くのがわかる。

不安はもう無い。

演れると言う確信に近い気持ちがあった。

注連縄を張り巡らせた舞台の手前で、俺たちの気配を察し楽が始まる。

この『おろち』には、テナヅチ・アシナヅチは何故か登場しない。

 

さっそく楽の音に合わせ、オロチが舞台へ上がった。

何かを求めるように所狭しと駆け巡り、尾に見立てた足で舞台の四方を強く音がする程踏みたてる。

やがて彼の勢いが収まり、中央にとぐろを巻いておさまると俺の出番だ。

舞台に登場したスサノオを、むくりと頭をもたげたオロチが角を振りたてながら威嚇。

負けじとスサノオも太刀を抜き放つ。

普段の俺ではない、別人の俺がその場にあった。

 

クライマックスも近づいた頃、俺の目前を右側から左側へ横切ったオロチの身体が、まだ半分以上残った状態で勢い良く回れ右をして反転しようとした。

その時だった。

あまりにも勢いが付き過ぎて、オロチの尾が唸りを生じて俺に迫った。

(・・・・・・・・・!)

とっさに、太刀でそれを横薙ぎに薙ぎ払う。

 

いい手応えがあった。

って、え?!

どたりと落下した尾が、きれいに一尺ばかり、横一文字に裂けている。

($¢£%#&*@§☆★・・・)

 

舞台の上と言う事をすっかり忘れ、しばし固まった。

オロチも動きを止め、舞台に横たわって動かない。

(うわっ?!)

俺はすっかり素に戻り、青ざめていた。

 

・・・タン!

 

突然、太鼓の音に合わせるようにオロチの身体が上下に跳ねた。

尾の裂け目が少し広がる。

 

・・・タン!

 

ややあって、また太鼓が鳴りオロチが上下に跳ねる。

裂け目は更に広がった。

繰り返すうちに、彼の白いふくらはぎがなんとも扇情的に現れる。

ゆっくりゆっくり、腿、尻、腰と次第に顕わになって来る、衵一つの彼の身体。

それはちょうど蛇の脱皮を見るようで、俺は自分が演者である事も忘れ、完全にその様子に見入ってしまった。"

 

やがて、最後に彼が頭を大きく振りたてると、被り物がするりと外れる。

完全に身一つになった彼が、こちらを振り向いた。

はっとして、俺は自分がまだ舞台の上にいた事を思い出し、いつの間にか下げていた太刀を取り直す。

いざ、討たん。

 

しかし彼の目線がそれをしまえと合図を寄越す。

では、この先は?

そこへ再び別人の俺が戻って来た。

あたかも慣れ親しんだ所作のように、俺の身体は彼と共に世界を作り、無事に舞台を努め終える事が出来た。

舞台から退がり、衣装を着けた部屋まで戻った時、まだ衵姿のままの彼が俺に抱き付いて来た。

 

「ありがとう。本当によく努めて下さいました。感謝します」

「や、でも、オロチ壊しちゃって、御神楽も無茶苦茶に・・・ごめんなさい。謝って済む事じゃないんですけど、済みません」

 

ドキドキ・ビクビクしながらひたすら謝る俺に、彼は済まなそうな顔になり・・・

 

「いえ。あれは本来、ああ言う舞いなんです。舞い手の器量如何によって、上手く行かない事があって・・・あの、あなたも御神楽は初めてだと言ってたから出来ないかも。そう思ってて・・・だから、その、気にしなくていいんです」

 

はぁ?どう言う事だ?俺が教わったのは、あの横薙ぎが出来ない奴のための舞だったのか?

訳がわからなかったが、とにかく衣装を返し、風呂を使わせてもらった後で彼に元来た道を宿まで送られて帰って来た。

 

「今日は本当にありがとうございました」

「いえ、こっちこそ、お世話になりました」

 

彼は上着のポケットを探り、小さな箱を俺に差し出した。

 

「これは祖父から。お守りです」

 

俺は礼を述べ、ありがたく頂戴した。

 

「あなたでよかった、本当に。やっぱり・・・・・・だな」

 

彼の言葉の最後の方が、なんだか聞き取れなかった。

 

「え、なんですか?」

 

聞き返したが彼は笑って手を振り、そのまま夜道を戻って行った。

翌朝、昨夜の道を辿ってみた。

しばらく歩くと、見覚えのある木造の鳥居と何となく覚えている

参道があって、そのまま進んで行くと確かに神社があった。

しかし、社殿も境内もずっと小さく、とても昨日のような事は出来まい。

だが、まるきり夢ではない証拠に彼の祖父がくれたお守り、それは鶉卵ぐらいの大きさで、中央が青く周囲が白いメノウが、俺の胸ポケットに納まっていた。

ま、いっか。

来年はちゃんと人間の女の子とデートしよう。

なぜか、そう心に決めていた。

 

『夜神楽』怖い話シリーズ57

怖異 恐子
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