オカルト・怖い話

『リアル(後編)』怖い話シリーズ23

2020年3月31日

世の中には禁忌と言うものがある・・・

その禁忌を犯したことにより、体験してしまった怖い話・・・

『リアル』

鏡の前であることをすると・・・がやって来る・・・

「来るわけねぇよな・・・」と思っていたとある若者・・・

しかし、それはやって来た・・・

今回は世にも恐ろしい怪談話『リアル』をお伝えします。

怖異 恐子
皆さん、こんにちは・・・

毎度おなじみ心霊界の石原さとみこと、コワイキョウコです・・・

やっちゃいけないって言われても、つい興味本位でやってしまう・・・

心霊?幽霊?怪奇現象?

本音では、そんなものあるわけないと思っているからこそ、安易な気持ちでやってしまう・・・

でも、世の中には本当にやってはいけないことってあるんですよね・・・

それでは怖い怖い怪談話・・・

『リアル』

どうぞお楽しみください・・・

※このお話は8分ほどで読むことができます。前・後編合わしても18分ほどで読めます。

『リアル(後編)』【怖い話シリーズ23】

 

車の後部座席に足をまるめて座り(体育座りね)、外をぼーっと眺めていると急に首に痛みが走った。

今までの痛みと比較にならないほど、言い過ぎかも知れないが激痛が走った。

首に手をやると滑りがあった。

・・・血が出てた。

指先に付いた血が、否応なしに俺を現実に引き戻した。

この時、怖いとか、アイツが近くにいるかもって考える前に「またかよ・・・」って、なげやりな気持ちが先に来たな。

もう何か嫌になって泣けてきた。

分かってもらえれば嬉しいけど、嫌な事が少しの間をおいて続けて起きるのってもうどうしようも無いくらい落ち込むんだよね。

気持ちの整理が着き始めると嫌な事が起きるっては辛いよね。

この時は少し気が弛んでいたから尚更で、「どーしろっつーんだよ!!」とか「いい加減にしてくれよ」とか独り言をぶつぶつ言いながら泣いてた。

 

車に両親が祖父母を連れて戻って来たんだけど、すぐにパニックになった。

何しろ問題の俺が首から血を流しながら、後部座席で項垂れて泣いてるからね。

何も無い訳がないよな。

 

「どうした?」とか「何とか言え!」とか「もぅやだー」とか「Tちゃん、しっかりせんか!!」とか「どげんしたと!?」とか「あなたどうしよう」とか。

この時は思わず「てめぇらぅるっせーんだよ!!」って怒鳴ってしまった。

こんな時に説明なんか出来るわけねーだろって、てめぇらじゃ何も出来ねぇ癖に黙ってろよ!とか思ってたな。

勝手に悪い事になって仕事は辞めるわ、騙されそうになるわ・・・

こんな俺みたいな駄目な奴のために走り回ってくれてる人達なのに・・・

今、考えると本当に恥ずかしい。

 

で、人生で一度きりなんだけどさ、親父がいきなり俺の左頬に平手打ちをしてきた。

物凄い痛かったね。

親父、滅茶苦茶厳しくて何度も口喧嘩はしたけど多分生まれてから一回も打たれた事無かったからな。

(父のポリシーで子供は絶対殴らないってのは昔から耳タコだったしね)

 

で、一言だけ「お祖父さんとお祖母さんに謝れ」って静かだけど厳しい口調で言ったんだ。

それで、何故か落ち着いた。

ってか、びっくりし過ぎて、それまでの絶望感がどっかに行ってしまったよ。

冷静さを取り戻して、皆に謝ったら急に腹が据わってきた気がした。

走り始めた車の中で励ましてくれる祖父母の言葉に、感極まってまた泣いた。

自分で思ってるよか全然、心が弱かったんだな、俺は。

 

S先生の家(寺でもあるが)に着くとふっと軽くなった気がした。

何か起きたっていうよりは、俺が勝手に安心したって方が正しいだろうな。

門をくぐり、石畳が敷かれた細い道を抜けると初老の男性が迎え入れてくれた。

そう言えばS先生の家にはいつもお客さんがいたような気がする。

きっと、祖母のように通っている人が多いんだろう。

奥に通され、裏手の玄関から入り進んでいくと、十畳くらいの仏間がある。

S先生は俺の記憶の通り、仏像の前に敷かれた座布団の上に正座していて・・・ゆっくりと振り向いたんだ。

(下手な長崎弁を記憶に頼って書くが見逃してな)

 

祖母「Tちゃん、もうよかけんね。S先生が見てくれなさるけん」

S先生「久しぶりねぇ。随分立派になって。早いわねぇ」

祖母「S先生、Tちゃんば大丈夫でしょかね?」

祖父「大丈夫って。そげん言うたかて、まだ来たばかりやけん、S先生かてよう分からんてさ」

祖母「あんたさんは黙っときなさんてさ。もうあたし心配で心配で仕方なかってさ」

 

何でだろう・・・

ただS先生の前に来ただけなのに、それまで慌ていた祖父母が落ち着いていた。

それは両親にも、俺にも伝わってきて、深く息を吐いたら身体から悪いものが出ていった気がした。

両親はもう体力的にも精神的にも限界に近かったらしく「疲れちゃったやろ?後はS先生が良くしてくれるけん、隣ば行って休んでたらよか」と人懐こい祖父の言葉に甘えて隣の部屋へ。

 

S先生「じゃあTちゃん、こっちにいらっしゃい」

S先生に呼ばれ、向かい合わせで正座した。

S先生「それじゃIさん達も隣の部屋で寛いでらして下さい。Tちゃんと話をしますからね。後は任せて、こっちの部屋には良いと言うまで戻って来ては駄目ですよ?」

祖父「S先生、Tちゃんば、よろしくお願いします!」

祖母「Tちゃん、心配なかけんね。S先生がうまいことしてくれるけん。あんたさんはよく言うこと聞いといたらよかけんね。ね?」

 

しきりにS先生にお願いして、俺に声をかけてくれる祖父母の姿にまた涙が出てきた。

泣きっぱなしだな俺。

S先生はもっと近づくように言い、膝と膝を付け合わせるように座った。

俺の手を取り、暫くは何も言わず優しい顔で俺を見ていた。

俺は何故か悪さをして怒られるじゃないかと、親の顔色を伺っていた子供の頃のような気持ちになっていた。

目の前の、敢えて書くが自分よりも小さくて明らかに力の弱いお婆ちゃんの、威圧的でもなんでもない雰囲気に呑まれていた。

あんな人本当にいるんだな。

 

S先生「・・・どうしようかしらね」

俺「・・・」

S先生「Tちゃん、怖い?」

俺「・・・はい」

S先生「そうよねぇ。このままって訳には行かないわよねぇ」

俺「えっと・・・」

S先生「あぁ、いいの。こっちの話だから」

 

何がいいんだ!?ちっともよかねーだろ、なんて気持ちが溢れて来て、耐えきれずついにブチ撒けた。

本当に人として未熟だなぁ、俺は。

 

俺「あの、俺どーなるんすか? もう早いとこ何とかして欲しいんです。 大体、何なんですか?何でアイツ俺に付きまとうんですか? もう勘弁してくれって感じですよ。S先生、何とかならないんですか?」

S先生「Tちゃ…」

俺「大体、俺、別に悪いこと何もしてないっすよ!?確かに□□(心霊スポットね)には行ったけど俺だけじゃないし、何で俺だけこんな目に会わなきゃいけないんすか?鏡の前で△しちゃだめだってのも関係あるんですか? ホント訳わかんねぇ!!あーっ!苛つくぅぁー!!」

 

「ドォ~ドォルルシッテ」

「ドォ~ドォルル」

「チルシッテ」

 

・・・何が何だか解らなかった。

(ホントに訳解んないので取り敢えずそのまま書く)

 

「ドォ~。 シッテドォ~シッテ」

 

左耳にオウムかインコみたいな、甲高くて抑揚の無い声が聞こえてきた。

それが「ドーシテ」と繰り返していると、理解するまで少し時間がかかった。

俺はS先生の目を見ていたし、S先生は俺の目を見ていた。

ただ優しくかったS先生の顔は無表情になっているように見えた・・・

左側の視界には、何かいるってのは分かってた。

チラチラと見えちゃうからね。

よせば良いのに、左を向いてしまった。

首から生暖かい血が流れてるのを感じながら。

 

アイツが立ってた。

体をくの字に曲げて、俺の顔を覗き込んでいた。

くどいけど・・・訳が解らなかった。

起きてることを認められなかった。

ここは寺なのに、目の前にはS先生がいるのに・・・何でなんで何で・・・

一週間前に、見たまんまだった。

アイツの顔が目の前にあった。 フクロウのように小刻みに顔を動かしながら俺を不思議そうに覗き込んでいた。

 

「ドォシッテ? ドォシッテ? ドォシッテ? ドォシッテ?」

 

オウムのような声で、ずっと質問され続けた。

きっと・・・林も同じように、この声を聞いていたんだろう。

俺と同じ言葉を囁かれていたのかは解らないが・・・

 

俺は息する事を忘れてしまって、目と口を大きく開いたままだった。

いや、息が上手く出来なかったって方が 正しいな。

たまに「コヒュッ」って感じで、息を吸い込む事に失敗してた気がするし。

そうこうしているうちに、アイツが手を動かして顔に貼り付けてあるお札みたいなのをゆっくりめくり始めたんだ。

見ちゃ駄目だ!! 絶対駄目だって分かってるし、逃げたかったんだけど動けないんだよ!!

もう顎の辺りが、見えてしまいそうなくらいまで来ていた。

心の中では「ヤメロ!それ以上めくんな!!」って叫んでるのに口からは「ァ・・・ァカハッ・・・」みたいな情けない息しか出ないんだ。

もうやばい!! ヤバい!ヤバい!ってところで

 

「パンッ!!」って。

 

例えとか誇張でもなく跳び上がった。

心臓が破裂するかと思った。

 

「パン!!」

 

その音で俺は跳び上がった。

正座してたから、体が倒れそうになりながら後に振り向いてすぐ走り出した。

何か考えてた訳じゃなく体が勝手に動いたんだよね。

でも慣れない正座のせいで、足が痺れてまともに走れないのよ。

痺れて足が縺れた事とあんまりにも前を見てないせいで、頭から壁に突っ込んだがちっとも痛くなかった。

額から血がだらだら出てたのに・・・

それだけテンパって、周りが見えてなかったって事だな。

血が目に入って何も見えない。

手をブン回して出口を探した。

けど、的外れの方ばっかり探してたみたい。

 

「まだいけません!」

 

いきなりS先生が大きい声を出した。

障子の向こうにいる両親や祖父母に言ったのか、俺に言ったのか分からなかった。

分からなかったが、その声は俺の動きを止めるには十分だった。

ビクってなって、その場で硬直。

またもや頭の中では、物凄い回転で事態を把握しようとしていた。

っつーか把握なんて出来る筈もなく、S先生の言うことに従っただけなんだけどね。

 

俺の動きが止まり、仏間に入ろうとする両親と祖父母の動きが止まった事を確認するかのように、少しの間を置いてからS先生が話始めた。

 

S先生「Tちゃんごめんなさいね。怖かったわね。もう大丈夫だから、こっちに戻ってらっしゃいIさん、大丈夫ですから、もう少し待ってて下さいね」

 

障子(襖だったかも)の向こうからしきりに、何か言ってのは聞こえてたけど覚えてない。

血を拭いながらS先生の前に戻ると手拭いを貸してくれた。

お香なのかしんないけど、いい匂いがしたな。

ここに来てやっと、あの音はS先生が手を叩いた音だって気付いた。

(質問出来る余裕は無かったけど)

 

S先生「Tちゃん、見えたわね?聞こえた?」

俺「見えました・・・どーして?って繰り返してました。」

 

この時には、もうS先生の顔はいつもの優しい顔になってたんだ。

俺も今度はゆっくりと、出来るだけ落ち着いて答える事だけに集中した。

まぁ・・・考えるのを諦めたんだけどね。

 

S先生「そうね。どうして?って聞いてたわね。何だと思った?」

 

さっぱり分からなかった。

考えようなんて、思わなかったしね。

 

俺「??・・・いや・・・ぅぅん?・・・分かりません」

S先生「Tちゃんはさっきの怖い?」

俺「怖い・・・です」

S先生「何が怖いの?」

俺「いや、だって普通じゃないし。幽霊だし・・・」

 

ここらへんで、俺の脳は思考能力の限界を越えてたな。

S先生が何が言いたいのか、さっぱりだった。

 

S先生「でも、何もされてないわよねぇ?」

俺「いや・・・首から血が出たし、それに何かお札みたいなの捲ろうとしてたし。明らかに普通じゃないし・・・」

S先生「そうよねぇ。でも、それ以外は無いわよねぇ」

俺「・・・」

S先生「難しいわねぇ」

俺「あの、よく分からなくて・・・すいません」

S先生「いいのよ」

 

S先生は、俺にも分かるように話してくれた。

諭すって、いった方がいいかもしれない。

まず、アイツは幽霊とかお化けって呼ばれるもので間違いない。

じゃあ所謂、悪霊ってヤツかって言うと、そう言いきっていいかS先生には難しいらしかった。

明らかにタチが悪い部類に入るらしいけど、S先生には悪意は感じられなかったって言っていた。

俺に起きた事は何なのかに対してはこう答えた。

 

「悪気は無くても、強すぎるとこうなっちゃうのよ。あの人ずっと寂しかったのね。

「話したい、触れたい、見て欲しい、気付いて気付いてーって、ずっと思ってたのね・・・」

「Tちゃんはね、分からないかもしれないけど暖かいのよ。色んな人によく思われてて、それがきっといいな~。優しそうだな~って思ったのね。」

「だから自分に気付いてくれた事が、嬉しくて仕方なかったんじゃないかしら・・・」

「でもね、Tちゃんはあの人と比べると全然弱いのね。だから、近くに居るだけでも怖くなっちゃって、体が反応しちゃうのね。」

 

S先生は、まるで子供に話すようにゆっくりと、難しい言葉を使わないように話してくれた。

俺はどうすればいいのか分からなくなったよ。

アイツは絶対に、悪霊とかタチの悪いヤツだと決めつけてたから。

S先生にお祓いしてもらえばそれで終ると思ってたから・・・

それなのに、S先生がアイツを庇うように話してたから・・・

 

S先生「さて、それじゃあ今度は何とかしないといけないわね。Tちゃん、時間かかりますけど何とかしてあげますからね」

 

この一言には本当に救われたよ。

あぁ、もういいんだ。

終るんだって思った。

やっと安心したんだ。

S先生に教えられたことを書きます。

俺にとって、一生忘れたくない言葉です。

 

「見た目が怖くても、自分が知らないものでも、自分と同じように苦しんでると思いなさい。救いの手を差し伸べてくれるのを待っていると思いなさい」

 

S先生はお経をあげ始めた。

お祓いのためじゃ無く、アイツが成仏出来るように。

その晩、額は裂けてたし、よくよく見れば首の痕が大きく破けて痛かったけど、本当にぐっすり眠れた。

(お経終わってもキョドってた俺のために、笑いながらその日は泊めてくれた)

翌日、朝早く起きたつもりが、S先生はすでに朝のお祈りを終らしてた。

 

S先生「おはよう、Tちゃん。さ、顔洗って朝御飯食べてらっしゃい。食べ終わったら本山に向かいますからね」

 

関係者でも何でもないんで、あまり書くのはどうかと思うが少しだけ。

S先生が属している宗派は前にも書いた通り教科書に載るくらい歴史があって、信者の方も修行されてる方も日本全国にいらっしゃるのね。

教えは一緒なんだけど、地理的な問題から東と西それぞれに本山があるんだって。

俺が連れていってもらったのが西の本山。

本山に暫くお世話になって、自分が元々持っている徳(未だにどんなものか説明できないけど)を高める事と、アイツが少しでも早く成仏出来るように本山で供養してあげられるためってS先生は言ってた。

その話を聞いて一番喜んだのが祖母、まだ信じられなそうだったのが親父。

最後は俺が「もう大丈夫。行ってくる」って言ったから反対しなかったけど。

 

本山に着くと迎えの若い方が待っていて、S先生に丁寧に挨拶してた。

本堂の横奥にある小屋(小屋って呼ぶのが憚れるほど、広くて立派だったが)で本山の方々にご挨拶。

ここでもS先生には、かなりの低姿勢だったな。

S先生、実は凄い人らしく、望めばかなりの地位(「寂しいけど序列ができちゃうのね」って、S先生は言ってた)にいても不思議じゃないんだって後から聞いた。

俺は本山に暫く厄介になり、まぁ客人扱いではあったけど、皆さんと同じような生活をした。

多分、S先生の言葉添えがあったからだろうな。

その中で、自分が本当に幸運なんだなって実感したよ。

 

もう四十年間、ずっと蛇の怨霊に苦しめられている女性や、家族親族まで祟りで没落してしまって身寄りが無くなってしまったけど、家系を辿れば立派な士族の末裔の人とか・・・

俺なんかより、よっぽど辛い思いしてる人が、こんなにいるなんて知らなかったから・・・

厳しい生活の中にいたからなのか、場所がそうだからなのか、あるいはS先生の話があったからなのか恐怖は大分薄れた。

(とは言うものの、ふと瞬間にアイツがそばに来てる気がしてかなり怯えたけど)

 

本山に預けてもらって一ヶ月経った頃、S先生がいらっしゃった。

 

S先生「あらあら、随分良くなったみたいね」

俺「えぇ、S先生のおかげですね」

S先生「あれから見えたりした?」

俺「いや・・・一回も。多分成仏したかどっかにいったんじゃないですか?ここ、本山だし」

S先生「そんな事ないわよ?」

 

顔がひきつった。

 

S先生「あら、ごめんなさい。また怖くなっちゃうわよね・・・」

「でもねTちゃん、ここには沢山の苦しんでる人がいるの。その人達を少しでも多く助けてあげるのが、私達の仕事なのよ」

 

多分だけどS先生の言葉には、アイツも含まれてたんだと思う。

 

S先生「Tちゃん、もう少しここにいて勉強しなさい。折角なんだから」

 

俺はS先生の言葉に従った。

あの時の事がまだまだ尾を引いていて、まだここにいたいって思ってたからね。

それに一日はあっという間なんだけど・・・

何て言うか、時間がゆっくり流れてような感じが好きだったな。

(何か矛盾してるけどね)

 

そんなこんなが続いて、結局三ヶ月も居座ってしまった。

その間、S先生は(二ヶ月前に来たきり)こっちには顔を出さなかった。

やっぱりS先生の言葉がないと不安だからね。

でも哀しいかな、流石に三ヶ月もそれまで自分がいた騒々しい世界から隔離去れると、物足りない気持ちが強くなってた。

実に二ヶ月ぶりにS先生がやって来て、やっと本山での生活は終りを迎えようとしていた。

身支度を整え、兎に角、お世話になった皆さんに一人ずつ御礼を言いS先生と帰ろうとしたんだ。

でも気付くと横にいたはずのS先生がいない。

「あれ?」と思って振り向いたら少し後にいたんだ。

「歩くの速すぎたかな?」って思って戻ったら、優しい顔で「Tちゃん、帰るのやめてここに居たら?」って言われた。

 

実はS先生に認められた気がして、少し嬉しかった。

「いや、僕にはここの人達みたいには出来ないです。本当に皆さん凄いと思います。真似出来そうもないですよ」

照れながら答えたら・・・

「そうじゃなくて、帰っちゃ駄目みたいなのよ」

「え?」

「だって、まだ残ってるから」

また顔がひきつった。

 

結局、本山を降りる事が出来たのは、それから二ヶ月後だった。

実に五ヶ月も居座ってしまった。

多分、こんなに長く家族でも無い誰かに、生活の面倒を見てもらう事はこの先ないだろう。

 

S先生から「多分もう大丈夫だと思うけど、しばらくの間は月に一度おいでなさい。」と言われた。

アイツが消えたのか、それとも隠れてれのか、本当のところは分からないからだそうだ。

長かった本山の生活も終って、やっと日常に戻って来た。

借りてたアパートは母が退去手続きを済ましてくれていて、実家には俺の荷物が運び込まれてた。

アパートの部屋を開けた時、何かを燻したような臭いと、部屋の真ん中辺りの床に小さな虫が集まってたらしい。

怖すぎたらしく、その日はなにもしないで帰って来たんだってさ。

翌日、仕方無いんで意を決してまた部屋を開けたら、臭いは残ってたけど虫は消えてたらしい。

母には申し訳ないが、俺が見なくて良かった。

 

実家に戻り、実に約半年ぶりくらいに携帯を見ると(そーいや、それまでは気にならなかったな。)物凄い件数の着信とメールがあった。

中でも一番多かったのが○○。

メールから、奴は奴なりに自分のせいでこんな事になったって自責の念があったらしく、謝罪とかこうすればいいとか、こんな人が見つかったとかまめに連絡が入ってた。

母から、○○が家まで来た事も聞いた。

 

戻って二日目の夜、○○に電話を入れた。

電話口が騒がしい。

○○は呂律が回らず、何を言っているか分からなかった。

・・・コンパしてやがった。

 

とりあえず電話をきり「殺すぞ」とメールを送っておいた。

所詮、世の中、他人は他人だ。

翌日、○○から誤りたいから時間くれないか?とメールが来た。

電話じゃなかったのは、気まずかったからだろう。

夜になると、家まで○○が来た。

わざわざ遠いところまで来るくらいだ。

相当、後悔と反省をしていたのだろう。

(夜に出歩くのを俺が嫌ったからってのが、一番の理由である事は言うまでもない)

玄関を開け○○を見るなり、二発ぶん殴ってやった。

一発は奴の自責の念を和らげるため、一発はコンパなんぞに行ってて俺を苛つかせた事への贖罪のめに。

言葉で許されるよりも、殴られた方がすっきりする事もあるしね。

まぁ、二発目は俺の個人的な怒りだが。

 

○○に経緯を細かく話し、その晩は二人して興奮したり怖がったり・・・

今思うと、当たり前の日常だなぁ。

○○からは、あの晩のそれからを聞いた。

 

あの晩、逃げたした時には林は明らかにおかしくなっていた。

林の車の中で友達と待っていた○○には、まず間違いなくヤバい事になっているって事がすぐに分かったそうだ。

でも、後部座席に飛び乗ってきた林の焦り方は尋常じゃ無かったらしく、車を出さざるを得なかったらしい。

「反抗したり、もたついたりしたら何されっか分かんなかったんだよ」

○○の言葉が、状況を物語っていた。

○○は、車が俺の家から離れ高速の入り口近くの信号に捕まった時に、逃げ出したらしい。

 

○○「だってあいつ、途中から笑い出したり、震えたり、俺は違うとか、そんな事しませんとか、言い出して怖いんだもんよ」

 

アイツが何か囁いてる姿が甦ってきて、頭の中の映像を消すのに苦労した。

俺の家に戻って来なかったのは単純に怖すぎたからだって。

「根性無しですみませんでした」って謝ってたから許した。

俺が○○でも勘弁だしね。

 

その後、林がどうなったかは誰も知らない。

さすがに今回の件では○○も頭に来たらしく、林を紹介した友達を問い詰めたらしい。

結局、林は詐欺師まがいにも成りきれないようなどうしようも無いヤツだったらしく、そそのかされて軽い気持ち(小遣い稼ぎだってさ・・・)で紹介したんだと。

○○曰く「ちゃんとボコボコにしといたから勘弁してくれ!」との事。

 

でも、こんな状況を招いたのが自分の情報だってのには参ったから、今度は持てる人脈を総動員したが・・・

こんなことに首を突っ込んだり聞いた事がある奴が回りにいるはずもなく、多分とか、~だろうとかってレベルの情報しか無かったんだ。

だから「何か条件が幾つかあって、偶然、揃っちゃうと起きるんじゃないか」としか言えなかった。

 

その後、俺はS先生の言い付けを守って毎月一度、S先生を訪ねた。

最初の一年は毎月、次の一年は三か月に一度。

○○も、俺への謝罪からか何も無くても家まで来ることが増えたし、S先生のところに行く前と帰ってきた時には必ず連絡が来た。

 

アイツを見てから二年が経った頃、S先生から「もう心配いらなそうね。Tちゃん、これからはたまに顔出せばいいわよ。でも、変な事しちゃだめよ」って言ってもらえた。

本当に終ったのか・・・俺には分からない。

S先生は、その三ヶ月後、他界されてしまった。

敬愛すべきS先生、もっと多くの事を教えて欲しかった。

 

ただ、今は終ったと思いたい。

S先生のお葬式から二ヶ月が経った。

寂しさと、大切な人を亡くした喪失感も薄れ始め、俺は日常に戻っていた。

慌ただしい毎日の隙間に、ふとあの頃を思い出す時がある。

あまりにも日常からかけ離れ過ぎていて、本当に起きた事だったのか分からなくこともある。

こんな話を誰かにするわけもなく、またする必要もなく、ただ毎日を懸命に生きてくだけだ。

祖母から一通の手紙が来たのは、そんなごくごく当たり前の日常の中だった。

 

封を切ると祖母からの手紙と、もう一つ手紙が出てきた。

祖母の手紙には、俺への言葉と共にこう書いてあった。

 

【S先生から渡されていた手紙です。四十九日も終わりましたのでS先生との約束通りTちゃんにお渡しします】

 

S先生の手紙、今となってはそこに書かれている言葉の真偽が確かめられないし、そのままで書く事は俺には憚られるので崩して書く。

 

Tちゃんへ

ご無沙汰しています。Sです。

あれから大分経ったわねぇ。

もう大丈夫?

怖い思いをしてなければいいのだけど・・・

いけませんね、年をとると回りくどくなっちゃって。

今日はね、Tちゃんに謝りたくてお手紙を書いたの。

 

でも、悪い事をした訳じゃ無いのよ。

あの時はしょうがなかったの。

でも・・・ごめんなさいね。

あの日、Tちゃんがウチに来た時、先生、本当は凄く怖かったの。

だってTちゃんが連れていたのは、とてもじゃ無いけど先生の手に負えなかったから。

だけどTちゃん怯えてたでしょう?

だから先生が怖がっちゃいけないって、そう思ったの。

 

本当の事を言うとね、いくら手を差し伸べても見向きもされないって事もあるの。

あの時は、運が良かったのね。

Tちゃん、本山での生活はどうだった?

少しでも気が紛れたかしら?

Tちゃんと会う度に、先生まだ駄目よって言ったでしょう?

覚えてる?

 

このまま帰ったら、酷い事になるって思ったの。

だから、Tちゃんみたいな若い子には退屈だとは分かってたんだけど、帰らせられなかったのね。

先生、毎日お祈りしたんだけど、中々何処かへ行ってくれなくて。

でも、もう大丈夫なはずよ。

近くにいなくなったみたいだから。

 

でもねTちゃん、もし・・・もしもまた辛い思いをしたら、すぐに本山に行きなさい。

あそこなら多分、Tちゃんの方が強くなれるから中々手を出せないはずよ。

 

最後にね、ちゃんと教えておかないといけない事があるの。

あまりにも辛かったら、仏様に身を委ねなさい。

もう辛い事しか無くなってしまった時には、心を決めなさい。

決してTちゃんを死なせたい訳じゃないのよ。

でもね、もしもまだ終っていないとしたら、Tちゃんにとっては辛い時間が終らないって事なの。

 

Tちゃんも本山で何人もお会いしたでしょう?

 

本当に悪いモノはね、ゆっくりと時間をかけて苦しめるの。

決して終らせないの。

苦しんでる姿を見て、ニンマリとほくそ笑みたいのね。

悔しいけど、先生達の力が及ばなくて、目の前で苦しんでいても何もしてあげられない事もあるの。

あの人達も助けてあげたいけど・・・

どうにも出来ない事が多くて・・・

 

先生何とかTちゃんだけは助けたくて手を尽くしたんだけど、正直自信が持てないの。

気配は感じないし、いなくなったとも思うけど、まだ安心しちゃ駄目。

安心して、気を弛めるのを待っているかも知れないから。

 

いい?Tちゃん。

決して安心しきっては駄目よ。

いつも気を付けて、怪しい場所には近付かず、余計な事はしないでおきなさい。

先生を信じて。ね?

 

嘘ばかりついて、ごめんなさい。

 

信じてって言う方が、虫が良すぎるのは分かっています。

それでも、最後まで仏様にお願いしていた事は信じてね。

 

Tちゃんが健やかに毎日を過ごせるよう、いつも祈ってます。

 

 

読みながら、手紙を持つ手が震えているのが分かる。

気持ちの悪い汗もかいている。

鼓動が早まる一方だ。

一体、どうすればいい?

 

まだ・・・終っていないのか?

 

急にアイツが、何処かから見ているような気がしてきた。

もう、逃れられないんじゃないか?

もしかしたら、隠れてただけでその気になれば、いつでも俺の目の前に現れる事が出来るんじゃないか?

 

一度疑い始めたら、もうどうしようもない。

全てが疑わしく思えてくる。

 

S先生は、ひょっとしたらアイツに苦しめられたんじゃないか?

だから、こんな手紙を遺してくれたんじゃないか?

結局、何も変わっていないんじゃないか?

林は、ひょっとしたらアイツに付きまとわれてしまったんじゃないか?

一体アイツに何を囁かれたんだ。

俺とは違う、もっと直接的な事を言われて、おかしくなったんじゃないか?

S先生は、俺を心配させないように嘘をついてくれたけど、「嘘をつかなければならないほど」の事だったのか・・・

結局、それが分かってるから、S先生は最後まで心配してたんじゃないのか?

 

疑えば疑うほど混乱してくる。

どうしたらいいのかまるで分からない。

ここまでしか・・・俺が知っている事はない。

二年半に渡り、今でも終ったかどうか定かではない話の全てだ。

 

結局、理由も分からないし、都合よく解決できたり何かを知ってる人がすぐそばにいるなんて事は無かった。

何処から得たか定かではない知識が招いたものなのか、あるいはそれが何かしらの因果関係にあったのか・・・

俺には全く理解できないし、偶然としか言えない。

 

でも、偶然にしてはあまりにも辛すぎる。

果たして、ここまで苦しむような罪を犯したのだろうか?

犯していないだろう?

だとしたら・・・何でなんだ?」

不公平過ぎるだろう。

 

それが正直な気持ちだ。

俺に言える事があるとしたら、これだけだ。

 

何かに取り憑かれたり、狙われたり付きまとわれたりしたら、マジで洒落にならんことを改めて言っておく。

最後まで、誰かが終ったって言ったとしても気を抜いちゃ駄目だ。

 

そして、最後の最後で申し訳ないが、俺には謝らなければいけない事があるんだ。

この話の中には、小さな嘘が幾つもある。

これは多少なりとも分かり易くするためだったり、俺には分からない事もあっての事なので目をつぶって欲しい。

 

おかげで、意味がよく分からない箇所も多かったと思う。

合わせてお詫びとさせて欲しい。

ただ、謝りたいのは、そこじゃあない。

 

もっと、この話の成り立ちに関わる根本的な部分で俺は嘘をついている。

気付かなかったと思うし、気付かれないように気を付けた。

そうしなければ、伝わらないと思ったから。

 

矛盾を感じる事もあるだろう。

がっかりされてしまうかもしれない・・・

でも、この話を誰かに知って欲しかった。

 

俺は○○だよ。

・・・今更、悔やんでも悔やみきれない。

 

『リアル(後編)』【怖い話シリーズ23】

怖異 恐子
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ゆきキャベツ

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はじめまして。 当ブログへようこそ♪ このブログでは、おもに宇宙・仏教の教え・都市伝説・オカルト・歴史、不定期でタイ旅行の情報などの記事を書いています。 どれも著者が好きなものです。 割とあまのじゃくなので、普通じゃない何かをやってやろうと必死こいてますが結局、空回りしてあさっての方向に行きがちです。 あさっての方向には、何があるのかはわかりませんが、進んだ先に行き着く場所が気になる方の為に、このブログは存在しているのかも知れません。 予想ではきっと、素晴らしいあさっての世界が待ち受けているはずです。 さあ、ご一緒にあなたもあさっての世界にまいりましょう。

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