とある若者が体験した怖ろしい話・・・
『握手』
当時、と言っても、もう八年も前の話・・・
俺は昼は仕事、夜は夜間大学と忙しい毎日を送っていた・・・
そんなある日の帰り道、いつもは見向きもしない自販機が目に止まり・・・
今回は怖ろしい怪談話『握手』をお伝えします。
毎度おなじみ心霊界の石原さとみこと、コワイキョウコです・・・
深夜、真っ暗な道でポツンと灯りがともる自動販売機って、なんかホッとしますよね・・・
何となく安心感があって、一息つくかなんて思ってコーヒー買ったりとか良くします・・・
でもね・・・
そんな真っ暗な中にある自販機でね・・・
先日、超怖い体験をしちゃったんですよ・・・
お金を入れて、ボタンを押そうとしたその瞬間・・・
・・・
・・・
・・・
大きな虫が私の顔に張り付いて来たんです!!!
思わず、ギャーーー?!って叫んじゃいました(汗)
それでは怖い怖い怪談話・・・
『握手』
どうぞお楽しみください・・・
※このお話は4分ほどで読むことができます。
『握手』怖い話シリーズ104
当時、と言っても、もう八年も前の話。
オレはと言えば、昼は仕事、夜は夜間の大学と我ながら、なかなかの苦学生をしていた。
そんなもんだから、学校終わったらもう深夜。
いつもは翌日の仕事に備えてサッと帰って、そのまま床に着くのだが、その日は土曜日。
翌日は休日なものだから、えっちらおっちらマイペースで自転車漕いでたのよね。
帰り道。
道と言っても超が付くほどの田舎だから、田んぼの畦道の延長みたいな道だけどね。
結構、というかかなり不気味なんだよね。
想像してもらったら解るかもしれないけど、草木も眠る丑三つ時に一人だだっ広い田舎道。
しかも周りには、マネキンの首などを使ったリアルなカカシがこちらを凝視してる。
まぁ、その頃にはとっくに慣れきっていたんだけどね。
帰路の途中、いつもなら見向きもしない自販機に目が止まったのは、珍しく金銭的にも余裕があったからなのかな。
別段喉も渇いてないのに・・・
田舎の人なら解るだろうけどさ、メジャーなメーカーの自販機じゃなくてね。
今で言うと、コーヒーの細長いロング缶あるでしょ?
全部がそのサイズの自販機。
かなりアナクロナイズなやつだね。
当たったらもう一本、なんていうおみくじ付き。
切れかかった電灯が発してたジジジ……という音がやけに耳に響いてた。
田舎の深夜なんて車通りもないから、信じられないくらい静かでさ、やけに小銭を投入する音が響いてた。
お金を入れてボタンを押したら、おみくじのランプが「ピピピピピピ……」って鳴り始める。
シーンとした辺りに、そのチープな電子音がやけに不釣り合いで・・・
当たっても二本も飲めないしな……
なんて苦笑しながら、ジュースを取ろうとしたんだけどさ、自販機の切れかかった電灯の薄暗い明かりくらいしかないから、取り出し口なんてほとんど真っ暗で見えない。
ジュースはどこだ?と手探りで取り出し口内をまさぐってたらさ、握られたんだよね……手を。
意味解んないと思うけど。
取りだし口の中で手を掴まれたの。
ちょうど握手をするような形で。
一瞬頭が真っ白になった。
間違いなく人の手の感触だった。
しかもね、段々握る力が強くなってくるのよ。
痛いくらいに。
そこで我に帰って、うわぁっと必死に手を振りほどいた。
相当強く握られてたのにあっさり手は抜けて、オレは半狂乱で自転車にかけ乗って、全力でその場を離れた。
混乱してたからハッキリとした記憶は無いんだけど、その手の感触と、背中ごしに聞いた「ピピピピピピ……」という音だけは鮮明に覚えてる。
そういえば、おみくじなんてボタン押して5秒くらいで止まるのに、何故かずっと「ぴぴピピピピ……」って言ってたな……
今考えると・・・
一人暮しの家に帰るなんてゾっとしたからさ、そのまま友人の家に転がりこんだよ。
で、その判断は大正解だった。
一人だったら気が狂ってたかもしれない。
何故かって言うとさ、直んないのよ。
手が・・・
握手の形のまま、そこだけ金縛りにあったかのように硬直してるんだよ。
友人もただ事ではないと思ったらしく、二人で朝まで頭の中で念仏を唱えてたら、夜がふける頃に急に何かから解き放たれるように硬直が解けたよ。
それからというもの、オレはどんな物にせよ、『口』になってる物に手を突っ込めなくなってしまった。
自販機はもちろん、郵便受けやポストなんかでさえ。
だってさぁ……『握手』……されるでしょ、また・・・。
多分・・・
この話には後日談があってね。
握手から六年後。
法事のために田舎に帰省した時ね、あの時から一度も通った事なかったあの道。
近道に使ってた裏道だったから、幸いにも卒業まで一度も通らずにすんだ。
なんでだろね。
あれほど忘れようと思ってたトラウマのあの場所に、ちょっと行ってみようかという気持ちになった。
理由は解んないけどさ、導かれるように……なんて言ったら安っぽくなっちゃうけど。
何かあったら嫌だな……と内心ビクビクしながら車を走らせてたらね、あっけない結末だった。
無かったんだよね、その自販機。
そりゃそうだよね。
あの時ですらかなり古かったのに、あれから八年も経ってるんだから。
当然と言っちゃ当然なんだけど、何かさ、数年間に渡る呪縛から解き放たれたみたいで心底ホっとした。
これで完全に忘れられるな、と思ってね。
せっかくの帰省なんだから、昔馴染みの連中と飲みに行ったよ。
楽しかった。
ほんと、ここで話が終われば良かったんだけどね。
気分も良く、ほろ酔い加減になったオレは、みんなにこの話を聞いてもらおうと思った。
八年前は、思い出すのも言葉にするのも嫌だったから話せなかったんだけど。
多分ね、なんだそりゃって、皆に笑って欲しかったんだろうと思う。
それでオレも笑って、この忌まわしい記憶はおしまい。
……そうなってほしかった。
そうなるはずだった・・・
つらつらと話してる途中でさ、友人の一人が「ちょっと待った」と、話の腰を折った。
「何?」とオレが聞いて返ってきた言葉は、オレの酔いを完全に覚めさせた。
聞かなきゃよかった。
話さなけりゃよかった。
何で話してしまったんだろう。
何で……
そいつが言うに・・・
「あの道にそんな自販機なんか見た事ない」
他の四人も同様に口を合わせる。
おかしいぞ、おい、梶田。
お前はあの時、朝まで念仏を唱えてくれたじゃないか。
オレは卒倒しそうになった。
あの時泊めてくれた友人の梶田まで、そんな自販機知らないと言う。
あの夜の事も覚えていなかった。
どう言ったらいいか分からないんだけどね。
オレ、段々とこの時の記憶が無くなっていってる事に気付いたんだよね。
なんていうかさ、夢って目が覚めた瞬間は覚えてるけど、その記憶を持続させようとしても、ウソのように消えていっちゃうでしょ?
夢の記憶って?
ちょうどそんな感じでさ、オレほんとは、あの時の自販機で何を買ったかとか、あの時の学校の授業は何だったとか、ハッキリ覚えてたはずだった・・・
でもほんと、ウソみたいに記憶から抜けていった。
忘れたくても忘れられるような事じゃないのに・・・
今ではもう、先に書いた事くらいしか記憶に残ってない。
何かの意思というか、そういう物を感じるんだよね、これ。
オレさ、変な予感があるんだけどさ、完全にオレの中からこの記憶が無くなった時、普通にまた何かの『口』に手を入れて、またされるんじゃないかと思う。
『握手』を・・・
一つ、とても大事な事を書き忘れたので、書いておきます。
ていうか、忘れてたというのが恐いです。
絶対にこれだけは忘れちゃいけないのに。
あの時、恐ろしく強く手を握られていたのに、あっさり抜けたのは、私が持ってるお守りのおかげだと、今では思っているんです。
お守りと言っても、その方面に強かった祖母(故人ですが)の力と髪の毛が一本入ってるお手製の物なんですが。
「田舎には物の怪が多いから」と、祖母が生前に親戚筋へ配ったとか。
それはわが家にももちろんあり、私は交通安全くらいにはなるかなと、常備携帯してたのです。
祖母が守ってくれたんだなと、今では確信してます。
多分これがなかったら、放してもらえなかったと思う……手を。
記憶が消えてってるのは、このお守りの存在を忘れさせようとしてるのではないか。
あの日から常に肌身離さず携帯してるお守り。
絶対この事を書こうとしてたのに、なぜか忘れてた。
このお守りの事まで忘れてしまったら、多分おしまいだと思う。
次は放してくれないと思う。
『握手』怖い話シリーズ104
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