オカルト・怖い話

『危険な好奇心(前編)』怖い話シリーズ100

2020年10月31日

小学生たちの無邪気な好奇心がもたらした怖ろしい話・・・

『危険な好奇心(前編)』

学校の裏山の奥地に自分たちだけの秘密基地を作った・・・

小5の夏休み、その秘密基地に泊まって遊ぼうと言うことに・・・

その日の深夜、薄暗い森の中に人の気配があり・・・

今回は怖ろしい怪談話『危険な好奇心(前編)』をお伝えします。

怖異 恐子
皆さん、こんにちは・・・

毎度おなじみ心霊界の石原さとみこと、コワイキョウコです・・・

子供の頃って、なんか自分たちだけの秘密基地とか作って遊んだりしましたよね・・・

ダンボールやら板やら、ロクでもないものを集めて・・・

今みれば秘密基地なんて大層な代物ではなく・・・(汗)

その中にこれまた良く解らないゴミやら古雑誌やら持ち込んで(汗)

んで、その内、誰か大人に見つかって、あえなく撤去・・・(汗)

でもまた、こりもせずに似たようなもの作り始めてたり(汗)

小学生時代の意味不明な思い出です(汗)

それでは怖い怖い怪談話・・・

『危険な好奇心(前編)』

どうぞお楽しみください・・・

※このお話は前編19分、後編15分ほどで読むことができます。

『危険な好奇心(前編)』怖い話シリーズ100

 

少し長い話ですが、暇な方、読んでください。

小学生の頃、学校の裏山の奥地に俺達は秘密基地を造っていた。

秘密基地っつっても結構本格的で、複数の板を釘で打ち付けて、雨風を防げる3畳ほどの広さの小屋。

放課後にそこでオヤツ食べたり、エロ本読んだり、まるで俺達だけの家のように使っていた。

俺と慎と淳と犬2匹(野良)でそこを使っていた。

小5の夏休み、秘密基地に泊まって遊ぼうと言うことになった。

各自、親には『○○の家に泊まる』と嘘をつき、小遣いをかき集めてオヤツ、花火、ジュースを買って。修学旅行よりワクワクしていた。

 

夕方の5時頃に学校で集合し、裏山に向かった。

山に入ってから一時間ほど登ると俺達の秘密基地がある。

基地の周辺は2匹の野良犬(ハッピー♂タッチ♂)の縄張りでもある為、基地に近くなると、どこからともなく2匹が尻尾を振りながら迎えに来てくれる。

俺達は2匹に『出迎えご苦労!』と頭を撫でてやり、うまい棒を1本ずつあげた。

 

基地に着くと、荷物を小屋に入れ、まだ空が明るかったのでのすぐそばにある大きな池で釣りをした。

まぁ釣れるのはウシガエルばかりだが。

(ちなみに釣ったカエルは犬の餌)

 

釣りをしていると、徐々辺りが暗くなりだしたので、俺達は花火をやりだした。

俺達よりも2匹の野良の方がはしゃいでいたが・・・

結構買い込んだつもりだったが、30分もしないうちに花火も尽きて、俺達は一旦小屋に入った。

夜の秘密基地というのは皆始めてで、山の奥地ということで、街灯もなく、月明りのみ。

聞こえるのは虫の鳴き声だけ。

簡易ライト一本の薄明るい小屋に三人、最初は皆で菓子を食べながら好きな子の話、先生の悪口など喋っていたが、静まり返った小屋の周囲から、時折聞こえてくる『ドボン!』(池に何かが落ちてる音)や『ザザッ!』(何かの動物?の足音?)に俺達は段々と恐くなって来た。

 

しだいに・・・

 

『今、なんか音したよな?』

『熊いたらどーしよ?!』

 

など、冗談ではなく、本気で恐くなりだしてきた。

時間は9時、小屋の中は蒸し暑く、蚊もいて、眠れるような状況では無かった。

それよりも山の持つ独特の雰囲気に俺達は飲まれてしまい、皆、来た事を後悔していた。

明日の朝までどう乗り切るか俺達は話し合った。

結果、小屋の中は蒸し暑く、周囲の状況も見えない(熊の接近等)為、山を下りる事になった。

もう内心、一時も早く家に帰りたい!と俺は思っていた。

懐中電灯の明かりを頼りに足元を照らし、少し早歩きで俺達は下山し始めた。

5分ほどはハッピーとタッチが俺達の周りを走り回っていたので心強かったが、少しすると2匹は小屋の方に戻っていった。

 

普段、何度も通っている道でも夜は全く別の空間にいるみたいだった。

幅30センチ程度の獣道を足を滑らさぬよう、皆無言で黙々と歩いていた。

そのとき、慎が俺の肩を後ろから掴み『誰かいるぞ!』と小さな声で言ってきた。

俺達は瞬間的にその場に伏せ、電灯を消した。

耳を澄ますと確かに足音が聞こえる。

 

『ザッ、ザッ、』

 

二本足で茂みを進む音。その音の方を目を凝らして、その何者かを捜した。

俺達から2、30メートル程離れた所の茂みに、その何者かは居た。

懐中電灯片手に、もう一方の手には長い棒のようなものを持ち、その棒でしげみを掻き分け、山を登っているようだった。

 

俺たちは始め恐怖したが、その何かが『人間』であること。

また相手が『一人』であることから、それまでの恐怖心はなくなり、俺たちの心は幼い『好奇心』で満たされていた。

俺が『あいつ、何者だろ?尾行する?』と呟くと、二人は『もちろん』と言わんばかりの笑顔を見せた。

微かに見える何者かの懐中電灯の明かりと草を書き分ける音を頼りに、俺達は慎重に慎重に後を着けだした。

 

その何者かは、その後20分程、山を登り続けて立ち止まった。

俺達はその後方30メートル程の所に居たので、そいつの性別はもちろん、様子等は全くわからない。

かすかな人影を捕らえる程度。

ソイツは立ち止まってから背中に背負っていた荷物を下ろし、何かゴソゴソしていた。

 

『アイツ一人で何してるんだろ?クワガタでも獲りに来たんかなぁ・・・』

 

と俺は言った。

 

『もっと近づこうぜ!』

 

と慎が言う。

俺達は枯れ葉や枝を踏まぬよう、擦り足で、身を屈ませながら、 ゆーっくりと近づいた。

俺達はニヤニヤしながら近づいていった。頭の中で、その何者かにどんな悪戯をしてやろうかと考えていた。

その時・・・

 

『コン!』

 

甲高い音が鳴り響いた。

心臓が止まるかと・・・

 

『コン!』

 

また鳴った。

一瞬何が起きたか解らず、淳と慎の方を振り返った。

すると淳が指をさし・・・

 

『アイツや!アイツ、なんかしとる!』と。

 

俺はその何者かの様子を見た。

 

『コン!コン!コン!』

 

何かを木に打ち付けていた。

いや、手元は見えなかったが、それが【呪いの儀式】というのはすぐにわかった。

と 言うのも、この山は昔から【藁人形】に纏わる話がある。

あくまで都市伝説的な噂だと、その時までは思っていたが・・・

 

俺は恐くなり、『逃げよ。』と言ったが、慎が・・・

 

『あれ、やっとるの女や。よー見てみ。』

 

と小声で言い出し、淳が・・・

 

『どんな顔か見たいやろ?もっと近くで見たいやろ?』

 

と悪ノリしだし、慎と淳はドンドンと先に進み出した。

俺はイヤだったが、ヘタレ扱いされるのも嫌なんで渋々二人の後を追った。

 

その女との距離が縮まるたびに『コン!コン!』以外に聞こえてくる音があった。

いや、音と言うか、女はお経?のような事を呟いていた。

 

少し迂回して、俺達はその女の斜め後方8メートル程の木の陰に身を隠した。

その女は肩に少し掛かるぐらいの髪の長さで、痩せ型、足元に背負って来たリュックと電灯を置き、写真?のような物に次々と釘を打ち込んでいた。

すでに6~7本打ち込まれていた。

その時・・・

 

『ワン!』

 

俺達はドキッとして振り返った、そこにはハッピーとタッチが尻尾を振ってハァハァいいながら「なにしてるの?」と言わんような顔で居た。

次の瞬間、慎が・・・

 

『わ゛ぁー!!』

 

と変な大声を出しながら走り出した。

振り返ると、鬼の形相をした女が片手に金づちを持ち、『ア゛ーッ!!』みたいな奇声を上げ、こちらに走って来ていた。

 

俺と淳もすぐさま立ち上がり慎の後を追い走った。

が、俺の左肩を後ろから鷲づかみされ、すごい力で後ろに引っ張られ、俺は転んだ。

仰向きに転がった俺の胸に『ドスっ』と衝撃が走り、俺はゲロを吐きかけた。

何が起きたか一瞬解らなかったが、転んだ俺の胸に女が足で踏み付け、俺は下から女を見上げる形になっていた。

女は歯を食いしばり、見せ付けるように歯軋りをしながら『ンッ~ッ』と何とも形容しがたい声を出しながら、俺の胸を踏んでいる足を左右にグリグリと動かした。

 

痛みは無かった。

もう恐怖で痛みは感じなかった。

女は小刻みに震えているのが解った。

恐らく興奮の絶頂なんだろう。

俺は女から目が離せなかった。

離した瞬間、頭を金づちで殴られると思った。

 

そんな状況でも、いや、そんな状況だったからだろうか、女の顔はハッキリと覚えている。

年齢は40ぐらいだろうか、少し痩せた顔立ち、目を剥き、少し受け口気味に歯を食いしばり、小刻みに震えながら俺を見下す。

俺にとってはその状況が10分?20分?全く覚えてない。

女が俺の事を踏み付けながら、背を曲げ、顔を少しずつ近づけて来た、その時、タッチが女の背中に乗り掛かった。

女は一瞬焦り、俺を押さえていた足を踏み外し、よろめいた。

そこにハッピーも走って来て、女にジャレついた。

恐らく、2匹は俺達が普段遊んでいるから人間に警戒心が無いのだろう。

俺はそのすきに慌てて起きて走りだした。

 

『早く!早く!』

 

と離れたところから慎と淳がこちらを懐中電灯で照らしていた。

俺は明かりに向かい走った。

 

『ドスっ』

 

後ろで鈍い音がした。

俺には振り返る余裕も無く走り続けた。

 

慎と淳と俺が山を抜けた時には0時を回っていた。

足音は聞こえなかったが、あの女が追い掛けてきそうで俺達は慎の家まで走って帰った。

慎の家に付き、俺は何故か笑いが込み上げて来た。

極度の緊張から解き放たれたからだろうか?

しかし、淳は泣き出した。

俺は・・・

 

『もう、あの秘密基地二度と行けへんな。あの女が俺らを探してるかもしれんし。』

 

と言うと淳は泣きながら・・・

 

『アホ!朝になって明るくなったら行かなアカンやろ!』

 

と言い出した。

俺がハァ?と思っていると、慎が俺に・・・

 

『お前があの女から逃げれたの、ハッピーとタッチのおかげやぞ!お前があの女に後から殴られそうなとこ、ハッピーが飛び付いて、代わりに殴られよったんや!』

 

すると淳も泣きながら・・・

 

『あの女、タッチの事も、タッチも・・うっ・』

 

と号泣しだした。

後から慎に聞くと走り出した俺を後から殴ろうとしたとき、ハッピーが女に飛び付き、頭を金づちで殴られた。

女は尚も俺を追い掛けようとしたが、足元にタッチがジャレついてきて、タッチの頭を金づちで殴った。

そして女は一度俺らの方を見たが、追い掛けてこず、ひたすら2匹を殴り続けていた。

 

俺達はひたすら逃げた。

慎も朝になれば山に入ろうといった。

もちろん、俺も同意した。

しかし、そこには、さらなる恐怖が待っていた。

 

興奮の為、明け方まで眠れず、朝から昼前まで仮眠を取り、俺達は山に向かった。

皆、あの『中年女』に備え、バット・エアーガンを持参した。

山の入口に着いたが、慎が『まだアイツがいるかも知れん』と言うので、いつもとは違うルートで山に入った。

昼間は山の中も明るく、蝉の泣き声が響き渡り、昨夜の出来事など嘘のような雰囲気だ。

が、『中年女』に出くわした地点に近づくに連れ緊張が走り、俺達は無言になり、又、足取りも重くなった。

少しずつ昨日の出来事が鮮明に思い出す地点に差し掛かった。

バットを握る手は緊張で汗まみれだ。

 

例の木が見えた。

女が何かを打ち付けていた木。

少し近づいて俺達は言葉を失った。

 

木には小さな子供(四・五歳ぐらいの女のコ?)の写真に無数の釘が打ち付けられていた。

いや、驚いたのはそれでは無い。

その木の根元にハッピーの変わり果てた姿が・・・

舌を垂らし、体中血まみれで、眉間に一本、釘が刺されていた。

俺達は絶句し、近づいて凝視することが出来なかった。

蝿や見たことの無い虫がたかっており、生物の『死』の意味を俺達は始めて知った。

 

俺はハッピーの変わり果てた姿を見て、今度中年女に会えば、次は俺がハッピーのように・・・と思い、すぐにでも家に帰りたくなった。

その時、淳が・・・

 

『タッチ・・、タッチの死体が無い!タッチは生きてるかも!』

 

と言い出した。

すると慎も・・・

 

『きっとタッチは逃げのびたんだ!きっと基地にいるはず!』

 

と言い出した。

俺もタッチだけは生きていて欲しい・・・と思い、三人で秘密基地へと走り出した。

 

秘密基地が見える場所まで走ってきたが、慎が急に立ち止まった。

俺と淳は『!中年女?!』と思い、慌てて身を伏せた。

黙って慎の顔を見上げると、慎は・・・

 

『・・なんだあれ・?』

 

と基地を指差した。

俺と淳はゆっくり立ち上がり、基地を眺めた。

何か基地に違和感があった。

何か・・・

基地の屋根に何か付いている・・。

 

少しずつ近づいていくと、基地の中に昨夜忘れていた淳の巾着袋(淳は菓子をいつもこれに入れて持ち歩いている)が基地の屋根に無数の釘で打ち付けてあるではないか!

俺達は驚愕した。

 

【この秘密基地、あの中年女にバレたんだ!】

 

慎が恐る恐る、バットを握り締めながら基地に近づいた。

俺と淳は少し後方でエアーガンを構えた。

基地の中に中年女がいるかもしれない。

慎はゆっくりとドアに手を掛けると同時に、すばやく扉を引き開けた。

 

『うわっ!』

 

慎は何かに驚き、その場に尻餅を付きながら、ズルズルと俺達の元に後ずさりをしてきた。

俺と淳は何に慎が怯えているのか解らず、とりあえず銃を構えながら基地の中をゆっくりと覗いた。

そこには変わり果てたタッチの死体があった。

 

『うわっ!』

 

俺と淳も慎と同じような反応をとった。

やはりタッチも眉間に五寸釘が打ち込まれていた。

俺はその時、思った。

あの中年女は変態だ!

いや、キチ●イだ!

普通、こんなことしないだろう。

とてつもない人間に関わってしまったと、昨夜、この山に来た事を心から後悔した。

しばらく三人ともタッチの死体を見て呆然としていたが、慎が小屋の中を指差し・・・

 

『おい!!あれ・・・』

 

俺と淳は黙りながら静かに慎が指差す方向を覗き込んだ。

基地の中・・・

壁や床板に何か違和感が・・・何か文字が彫ってある・・・

近づいてよーく見てみた。

 

『淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺・・・』

 

無数に釘で淳・呪・殺と壁や床に彫ってあった。

 

淳は『え??・・』

 

と目が点、というか、固まっていた。

いや、俺達も驚いた。

なぜ名前がバレているのか!

その時、慎が・・・

 

『淳の巾着や、巾着に名前書いてあるやん!』

『?!』

 

俺は目線を屋根に打ち付けられた巾着に持って行った。

無数に釘で打ち付けられた巾着には確かに・・・

 

【五年三組○○淳】

 

と書かれてある。

淳は泣き出した。

俺も慎も泣きそうだった。

学年と組、名前が中年女にバレてしまったのだ。

もう逃げられない。

俺や慎の事もすぐにバレてしまう。

頭が真っ白になった。

 

俺達はみんなハッピーやタッチのように眉間に釘を打ち込まれ、殺される。。。

慎が言った・・・

 

『警察に言おう!もうダメだよ、逃げられないよ!』

 

俺はパニックになり・・・

 

『警察なんかに言ったら、秘密基地の事とか昨日の夜、嘘付いてここに来た事バレて親に怒られるやろ!』

 

と冷静さを欠いた事を言った。

いや、当時は何よりも親に怒られるのが一番恐いと思っていたのもあるが・・・

ただ、淳はずっと泣いたまま『ッヒック、ヒック・・・』と嗚咽を漏らしていた・・・

何も掛ける言葉が見つからなかった。

 

淳は無言で打ち付けられた巾着を引きちぎり、ポケットにねじ込んだ。

俺達は会話が無くなり、とりあえず山を降りた。

淳は泣いたままだった。

俺は今もどこからか中年女に見られている気がしてビクビクしていた。

山を降りると慎が・・・

 

『もう、この山に来るのは辞めよ。しばらく近づかんといたら、あの中年女も俺らの事を忘れよるやろ。』

 

と言った。

俺は・・・

 

『そやな、んで、この事は俺らだけの秘密にしよ!誰かに言ってるのがアイツにバレたら、俺ら殺されるかもしれん。』

 

慎は頷いたが淳は相変わらず腕で涙を拭いながら泣いていた。

その日、各自家に帰り、その後、その夏休みは三人で会うことは無かった。

 

その二週間後の新学期、登校すると、淳の姿は無かった。

慎は来ていたので、慎と二人で『もしかして淳、あの女に・・・』と思いながら、学校帰りに二人で淳の家を訪ねた。

家の呼び鈴を押すと、明るい声で『はぁーい!』と淳の母親が出て来た。

俺が『淳は?』と聞くと、おばさんは『わざわざお見舞いありがとねー。あの子、部屋にいるから上がって。』と言われ、俺と慎は淳の部屋に向かった。

 

『淳!入るぞ!』と淳の部屋に入ると、淳はベットで横になりながら漫画を読んでいた。

以外と平気そうな淳を見て俺と慎は少し安心した。

 

慎『何で今日休んだん?』

俺『心配したぞ!風邪け?』

淳『・・・』

 

淳は無言のまま漫画を閉じ、俯いていた。

そこにおばさんが菓子とジュースを持ってきて

 

『この子、10日ぐらい前からずっと蕁麻疹が引かないのよ。』

 

と言って・・・

 

『駄菓子の食べ過ぎじゃないのー?』

 

と続けた。

笑いながらおばさんは部屋を出ていった。

俺と慎は笑って・・・

 

『何だよ!脅かすなよー、蕁麻疹かよ!拾い食いでもしたんだろ?』

 

とおどけたが、淳は俯いたまま笑わなかった。

慎が『おい!淳どうした?』と訪ねると淳は無言でTシャツを脱いだ。

 

体中に赤い斑点。

確かに蕁麻疹だった。

俺は『蕁麻疹なんて薬塗ってたら治るやん。』と言うと、淳が・・・

 

『これ、あの女の呪いや・・・』

 

と言いながら背中を見せて来た。

確かに背中も無数に蕁麻疹がある。

 

慎が『何で呪いやねん。もう忘れろ!』と言うと・・・

淳は『右の脇腹見て見ろや!』と少し声を荒げた。

 

右の脇腹・・・たしかに蕁麻疹が一番酷い場所だったが、なぜ『呪い』に結び付けるかが解らなかった。

すると淳が『よく見ろよ!これ、顔じゃねーか!』

 

よく見て俺と慎は驚いた。

確かに直径五センチ程の人、いや、女の顔のように皮膚がただれて腫れ上がっている。

俺と慎は『気にしすぎだろ?たしかに顔に見えないことも無いけど。』と言ったが・・・

 

『どー見ても顔やんけ!俺だけやっぱり呪われてるんや!』

 

と言った。

俺と慎は淳に掛ける言葉が見つからなかった。

と言うより淳の雰囲気に圧倒された。

いつもは温厚で優しい淳が・・・少し病んでいる。

青白い顔に覇気のない目、きっと精神的に追い詰められているのだろう。

俺と慎は急に淳の家に居づらくなり、帰ることにした。

 

帰り道、俺は慎に『あれ、どー思う?呪いやろか?』と聞いた。

慎は『この世に呪いなんてあらへん!』と言った。

なぜかその言葉に俺が勇気づけられた。

 

それから三日過ぎた。

依然、淳は学校には来なかった。

俺も慎も淳に電話がしづらく、淳の様子は解らなかった。

ただクラスの先生が『風疹で淳はしばらく休み』と言っていたので少し安心していた。

しかし、この頃から学校で奇妙な噂が流れ始めた。

 

【学校の通学路にトレンチコートにサンダル履きのオバさんが学童を一人一人睨むように顔を凝視してくる】

 

という噂だ。

その噂を聞いた放課後、俺は激しく動揺した。

何故なら俺は唯一、間近で顔を見られている。

慎に相談した。

慎は・・・

 

『大丈夫!夜やったし見えてないって!それにあの日見られてたとしても、忘れてるって!』

 

と、俺を落ち着かせる為か、意外と冷静だった。

何よりも嫌だったのが、俺と慎は通学路が全くの正反対。

俺と淳は近所なのだが、淳が休んでいる為、俺は一人で帰らなければいけない。

俺は慎に・・・

 

『しばらく一緒に帰ろうよ!俺、恐い。』

 

と慎に頼んだ。

慎は少し呆れた顔をしていたが・・・

 

『淳が来るまでやぞ!』

 

と行ってくれた。

その日から、帰りは俺の家まで慎が付き添ってくれる事になった。

 

その日から慎と帰ることになった。

その日は学校で噂の『トレンチコート女』(推定・中年女)には会わなかった。

次の日も、その次の日も会わなかった。

しかし、学校では相変わらず【トレンチコートの女】の噂は囁かれていた。

慎と一緒に下校することになり五日目、俺達は久しぶりに淳の見舞いに行くことにした。

お土産に給食のデザートのオレンジゼリーを持って行った。

 

淳の家に着き、チャイムを押した。

いつもの様に叔母さんが明るく出て来て俺達を中に入れてくれた。

淳は相変わらず元気が無かった。

蕁麻疹は大分消えていたが、淳本人は・・・

 

『横腹の顔の部分が日に日に大きくなっている。』

 

と言っていたが、俺と慎には全く解らなかった。

むしろ、前回見たときよりはマシになっているように見えた。

精神的に淳はショックを受けているのだろう。

俺達は学校で流れている『トレンチコートの女』の噂は淳には言わなかった。

帰り間際に淳の叔母さんが俺達の後を追い掛けて来て、『淳、クラスでイジメにでも会っているの?』と不安げな顔で聞いて来た。

俺達は否定したが、本当の理由を言えないことに少し罪悪感を感じた。

 

それから三日後、その日は珍しく内藤と佐々木と俺と慎の四人で一緒に下校した。

内藤は体がデカく、佐々木はチビ。

実写版のジャイアンとスネオみたいな奴ら。

もう俺と慎の中で『中年女』の事は風化しつつあった。

学校で噂の『トレンチコート女』も実在したとしても、全くの別人と思えて来ていた。

その日は四人で駅前にガチャガチャをしに行こうと言う話になり、いつもと違う道を歩いていた。

これが間違いだった。

 

楽しく四人で話しながら歩いていると、佐々木が『あ、あれトレンチコート女ぢゃね?』

内藤『うわっ!ホンマや!きもっ!』と言い出した。

俺はトレンチコート女を見てみた。

心の中で《別人であってくれ!》と願った。

トレンチコート女はスーパーの袋を片手に持ち、まだ残暑の残るアスファルトの道で、ただ、突っ立っていた。

うつむいて表情は全く解らない。

慎は警戒しているのか、小声で俺達に『目、合わせるなよ!』と言ってきた。

 

少しずつ、女との距離が縮まっていく。

緊張が走った。

女は微動たりせず、ただ、うつむいていた。

女との距離が5メートル程になったとき、女は突然顔を上げ、俺達四人の顔を見つめてきた。

そして、その次に俺達の胸元に目線を送って来ているのが解った。

名札を確認している!

 

俺は焦った。

平常心を保つのに必死だった。

一瞬見た顔であの日の出来事がフラッシュバックし、心臓が口から出そうになった。

間違いない。『中年女』だ!

俺はうつむきながら歩き過ぎた。

俺はいつ襲い掛かられるかとビクビクした。

 

どれくらい時が過ぎただろう。

いや、ほんの数秒が永遠に感じた。

内藤が『あの目見たけ?あれ完全にイッテるぜ!』と笑った。

佐々木も『この糞暑いのにあの格好!ぷっ!』と馬鹿にしていた。

俺と慎は笑えなかった。

佐々木が続けて言った

 

『やべ!聞こえたかな?まだ見てやがる!』

 

俺はとっさに振り返った。

『中年女』と目が合った・・・

まるで蝋人形のような無表情な『中年女』の顔がニヤっと、凄くイヤらしい微笑みに変わった。

背筋が凍るとはこの事か・・・

 

俺は生まれて始めて恐怖によって少し小便が出た。

バレたのか?俺の顔を思い出したのか?バレたなら何故襲って来ないのか?

俺の頭はひたすらその事だけがグルグル巡っていた。

内藤が『うわーっ、まだこっち見てるぜ!佐々木!お前の言った悪口聞かれたぜ!俺知らねーっ!』っとおどけていた。

もうガチャガチャどころではない。

曲がり角を曲がり、女が見えなくなった所で俺は慎の腕を掴み・・・

 

『帰ろう!』

 

と言った。

慎は俺の目をしばらく見つめて『あ、今日塾だっけ?帰らなやばいな!』と俺に合わせ、俺達は走った。

家とは逆の方向に走り、しばらくして俺は慎に・・・

 

『アイツや!あの目、間違いない!俺らを探しに来たんや!』

 

慎は意外と冷静に・・・

 

『マジマジと名札見てたもんな・・・学年とクラス、淳の巾着でバレてるし・・・』

 

俺はそんな落ち着いた慎に腹がたち・・・

 

『どーすんだよ!もう逃げ切れネーよ!家とかそのうちバレっぞ!!』

慎『やっぱ警察に言おう。このままはアカン。助けてもらお。』

俺『・・・・・・・・・』

 

俺はしばらく黙っていた。

たしかに他に助かる手は無いかもしれないと思った。

 

『でも、警察に何て言う?』

 

と俺が問うと慎は・・・

 

『山だよ。あの山に打ち付けられた写真とかハッピー、タッチの死体、あれを写真に撮って、あの女が変質者って言う証拠を見せれば警察があの女を捕まえてくれるはずや!』

 

俺は納得したが、もうあの山に行くのは嫌だったが、仕方が無かった。

 

さっそく、明日の放課後、浦山に二人で行く事になった。

明日の放課後、裏山に行く。

その話がまとまり、俺達は家に帰ろうとしたが、『中年女』が何処に潜伏しているか解らない為、俺達は恐ろしく遠回りした。

通常なら20分で帰れるところを二時間かけて帰った。

家に着いて俺はすぐに慎に電話した・・・

 

『家とかバレてないかな?今夜きたらどーしよ!』

 

などなど。

俺は自分で自分がこれほどチキンとは思わなかった。

名前がバレてしまい、小屋に『淳呪殺』と彫られた淳が精神的に病んでいるのが理解できた。

慎は『大丈夫、そんなすぐにバレないよ!』と俺に言ってくれた。

この時、俺は思った。

普段対等に話しているつもりだったが、慎はまるで俺の兄のような存在だと。

もちろんその日の夜は眠れなかった。

わずかな物音に脅え、目を閉じれば、あのニヤッと笑う中年女の顔がまぶたの裏に焼き付いていた。

 

朝が来て、学校に行き、授業を受け、放課後、午後3時半・・・

俺と慎は裏山の入口まで来たが・・・

俺は山に入るのを躊躇した。

 

『中年女』

『変わり果てたハッピーとタッチ』

『無数の釘』

 

頭の中をグルグルと鮮やかに『あの夜の出来事』が甦ってくる。

俺は慎の様子を伺った。

慎は黙って山を見つめていた。

慎も恐いのだろう。

 

『やっぱ、入るの恐いな・・・』

 

と言ってくれ!と俺は内心願っていた。

慎はズボンのポケットからインスタントカメラを取り出し、右手に握ると、俺の期待を裏切り・・・

 

『よし。』

 

と小さく呟き、山へ入るとすぐさま走りだした。

俺はその後ろ姿に引っ張られるように走りだした。

 

慎は振り返らずに走り続ける。

俺は必死に慎を追った。

一人になるのが恐かったから必死で追った。

今思えば慎も恐かったのだろう。

恐いからこそ周りを見ずに走ったのだろう。

 

『あの場所』が 徐々に近づいてくる。

思い出したくもないのに『あの夜』の出来事を鮮明に思いだし、心に『恐怖』が広がりだした。

恐怖で足がすくみだした時、『あの場所』に着いた。

 

『中年女が釘を打っていた場所』

『中年女がハッピー、タッチを殺した場所』

『中年女に引きずり倒された場所』

 

【中年女と出会ってしまった場所】

 

俺は急に誰かに見られているような気がして周りを見渡した。

いや、『誰かに』では無い、中年女に見られているような気がした。

山特有の『静寂』と自分自身の心に広がった『恐怖』がシンクロし、足が震えだす。

立ち止まる俺を気にかける様子無く、慎はあの木に近づきだした。

何かに気付き、慎はしゃがみ込んだ。

 

『ハッピー・・・』

 

その言葉に俺は足の震えを忘れ、慎の元に歩み寄った。

ハッピーは既に土の一部になりつつあった。

頭蓋骨をあらわにし、その中心に少し錆びた釘が刺さったままだった。

俺は釘を抜いてやろうとすると、慎が『待って!』と言い、写真を一枚撮った。

慎の冷静さに少し驚いたが、何も言わず俺は再び釘を抜こうとした。

頭蓋骨に突き刺さった釘をつまんだ瞬間、頭蓋骨の中から見たことの無い、多数の虫がザザッと一斉に出てきた。

 

『うわっ!』

 

俺は慌てて手を引っ込め、立ち上がった。

ウジャウジャと湧いている小さな虫が怖く、ハッピーの死体に近づく事が出来なくなった。

それどころか、吐き気が襲って来てえずいた。

慎は何も言わずに背中を摩ってくれた。

俺はあの夜、ハッピーを見殺しにし、又、ハッピーを見殺しにした。

俺は最高に弱く、最低な人間だ。

慎はカメラを再び構え、『あの木』を撮ろうとしていた。

 

『ん?!おい!ちょっと来てーや!』

 

何かを発見し、俺を呼ぶ慎。俺は恐る恐る慎の元に歩み寄った。

慎が『これ、この前無かったよな?』と何かを指差す。

その先に視線をやると、無数に釘の刺さった写真が・・・

ん?たしか前もあったはずじゃ・・・

 

いや!

写真が違う!

 

厳密に言うと、この前見た『4・5歳ぐらいの女の子』の写真はその横にある。

つまり、写真が増えている!

写真の状態からして、ここニ・三日ぐらいに打ち込まれているであろう。

この前に見た写真は既に女の子かどうかもわからないぐらいに雨風で表面がボロボロになっている。

新しい写真も『4、5歳ぐらいの女の子』のようだ。

この時、慎には言わなかったが、俺は一瞬『新しい写真が俺だったらどうしよう!!』とドキドキしていた。

慎はカメラにその打ち込まれた写真を撮った。

そして・・・

 

『後は秘密基地の彫り込みを撮ろう。』

 

と言い、又走りだした。

俺は近くに中年女がいるような錯覚がし、一人になるのが怖く、慌てて慎を追った。

 

秘密基地に近いてきて、俺は違和感を感じ・・・

 

『慎!』

 

と呼び止めた。

違和感・・・

 

いつもなら秘密基地の屋根が見える位置にいるはずなのだが、屋根が見えない。

慎もすぐに気付いたようだ。このとき脳裏に『中年女』がよぎった。

 

胸騒ぎがする。

鼓動が激しくなる。

 

慎が『裏道から行こう。』と言った。

俺は無言で頷いた。

裏道とは獣道を通って秘密基地に行く従来のルートとは別に、茂みの中をくぐりながら秘密基地の裏側に到達するルートの事である。

この道は万が一秘密基地に敵が襲って来た時の為に造っておいた道。

もちろん、遊びで造っていたのだが、まさかこんな形で役に立つとは・・・

この道なら万が一、基地に『中年女』がいても見つかる可能性は極めて低い。

俺と慎は四つん這いになり、茂みの中のトンネルを少しずつ進んだ。

 

そして秘密基地の裏側約5メートル程の位置にさしかかった時、基地の異変の理由が解った。

バラバラに壊されている。

俺達が造り上げた秘密基地はただの材木になっていた。

 

しばらく様子を伺ったが、中年女の気配もないので俺達は茂みから抜けだし、秘密基地『跡地』に到達した。

俺達はバラバラに崩壊された秘密基地を見、少し泣きそうになった。

『秘密基地』言わば俺達三人と2匹のもう一つの家。

バラバラになった材木の片隅に大きな石が落ちていた。

恐らく誰かがこれをぶつけて壊したのだろう。

 

『誰かが』?・・いや、多分『中年女』が・・・

 

慎が無言で写真を撮りだした。

そして数枚の材木をめくり、『淳呪殺』と彫られた板を表にし、写真を撮った。

その時、わずかな板の隙間からハエが飛び出し、その隙間からタッチの遺体が見えた。

 

ハッピとタッチ・・・

秘密基地よりもかけがえの無い2匹を俺達は失った事を痛感した。

慎は立ち上がり・・・

 

『よし、このカメラを早く現像して警察に持って行こう。』

 

と言った。

俺達は山を駆け降りた。山を降り、俺達は駅前の交番へ急いだ。

 

『このカメラに納められた写真を見せれば、中年女は捕まる。俺らは助かる。』

 

その一心だけで走った。

途中でカメラ屋に寄り現像を依頼。

出来上がりは30分後と言われたので俺達は店内で待たせてもらった。

その間、慎との会話はほとんど無かった。

ただただ 写真の出来上がりが待ち遠しかった。

そして30分が過ぎた。

 

『お待たせしましたー。』

 

バイトらしき女店員に声をかけられた。

俺と慎は待ってましたとばかりにレジに向かった。

女店員は少し不可解な顔をしながら・・・

 

『現像出来ましたので中の確認をよろしくお願いします。』

 

といいながら写真の入った封筒を差し出した。

まぁ現像後の写真が犬の死骸や釘に刺された少女の写真のみだから、不可解な顔をするのも当然だが・・・

慎はその場で封筒から写真を取り出し、すべての写真を確認し・・・

 

『大丈夫です。ありがとうございました。』

 

と言い、代金を支払った。

店を出て、すぐさま交番へ向かった。

これで全てが終わる

駅前の交番へ二人して飛び込んだ。

 

『ん?!どうしたの?』

 

中にいた若い警官が笑顔で俺達を迎えてくれた。

俺達はその警官の元に歩み寄り・・・

 

『助けてください!』

 

と言った。

俺と慎は『あの夜』の出来事を話した。

裏付ける写真も一枚一枚見せながら話した。

そして、今も『中年女』に狙われている事を。

一通り話し終わるとその警官は穏やかな表情で・・・

 

『お父さんやお母さんに言ったの?』

 

俺たちは親には伝えてないと言うと・・・

 

『ん~、んぢゃ家の電話番号教えてくれるかな?』

 

と警官は言い出した。

慎が『なんで親が関係あるの?狙われているのは俺達だよ?!』とキレ気味に言い放った。

 

ちなみに慎の両親は医者と看護婦。

高校生の兄貴は某有名私立高校生。

俺達3人の中で一番裕福な家庭だが、一番厳しい家庭でもある。

『あの夜』親に嘘をついて秘密基地に行き、このような事に巻き込まれた、などバレれば、俺や淳もだが、慎が一番洒落にならないのである。

 

『助けてよ!警察官でしょ!!』

 

と慎が詰め寄る。

 

警官は少し苦笑いして・・・

 

『君達小学生だよね?やっぱり、こーゆー事はキチンと親に言わなきゃダメだよ。』

 

と、しばらくイタチゴッコが続いた。

あげくに警官は・・・

 

『じゃあ君達の担任の先生は何て名前?』

 

など、俺達にとっては《脅し》に取れる言葉を投げ掛けてきた。

まぁ、警官にとっては俺達の『保護者及び責任者』から話を聞かないと・・・って感じだったのだろうが、俺達にとって、こういう時の『親・先生』は怒られる対象にしか考えられなかった。

そうこうしているうちに俺達の心の中に、目の前にいる 警官に対して《不信感》が芽生えてきた。

 

[このまま此処にいれば、無理矢理住所を言わされ、親にチクられる!]と。

(この警官は俺達の話を信じてくれてないのでは?)

と俺は思い始めた。

 

俺や慎が必死に助けを求めているのに、『親』『先生』ばかり言ってくる。

俺達は『中年女』の存在を裏付ける証拠写真まで持参しているのに・・・

俺はもう一度警官に写真を見せつけ・・・

 

『犬をこんな殺し方する奴なんだよ!』と言った。

 

すると、警官はしばらく黙り込み、写真を手に取り、意外な一言を言った。

 

『ん~。。これって犬?なの?』

 

『は?』と俺と慎は驚いた。

この人は何を言っているんだろう!と。

続けて警官は・・・

 

『いや、君達を信じていない訳じゃないよ。じゃあもう少し詳しく教えて。ここが頭?』

 

警官は冗談を言っている訳では無く、本当に解らないようだ。

俺はハッピーの写真を取上げ・・・

 

『だから・・・』

 

と説明しかけて言葉が詰まった。

確かに、この写真を客観的に見ると犬の死骸には見えないかも・・・と思った。

薄茶色に変色した骨に所々わずかに残っている毛・・・

俺と慎はハッピーが死体になった翌日にも見ているので、腐食が進んでいても元の形(倒れていた角度、姿)を知っている。

だが、知らない奴が見るとただの汚れた石に汚い雑巾の様なものが絡んでいるようにしか見えないかも知れない。。

 

俺は冷静に他の写真も見てみた。

板に刻まれた『淳呪殺』・少女の写真に無数の『釘』。。

たしかに『中年女』の存在に直接結び付けるのは難しいのか?

ひょっとして警官は『小学生の悪戯』と思っていて、先程から『親・担任』などと言っているのか?

俺はこのまま此処にいては危険だと感じ出した。

 

『絶対、親を呼び出すつもりだ!』

 

俺は慎に小さな声で耳打ちした。

慎は無言で頷き、アゴをクイッと動かし、『外に出る合図』を送ってきた。
すると次の瞬間には慎は勢いよく振り向き、走りだした。

俺もすぐさま後を追い、交番から抜け出した。

後ろから『おいっ!』と警官が呼び止める声がしたが、俺達は振り向かずに走り続けた。

警官が追い掛けてくる気配は無かった。

警官はおそらく・・・

 

『悪戯しにきた小学生が、嘘を見破られそうになり逃げ出した。』

 

とでも思っているのだろう。

俺と慎は警官が追って来ていないことを充分に確認し、道端に座り込み、緊急ミーティングを開催した。

 

『これからどーする?』

『どーしよ・・』

 

俺達は途方に暮れていた。最後の切り札の警察にも信じてもらえず、『中年女』から身を守る術を失った。

 

『これで全てが解決する』

 

と俺達は思い込んでいただけにショックはデカかった。

 

『このままだったら中年女に住所バレて・・・』

 

俺は恐かった。

すると慎が・・・

 

『・・・しばらくあの女には出くわさないように注意して・・・』

 

と言いかけたが俺はすぐに

 

『もう無理だよ!淳の学年とクラスがバレてる時点ですぐに俺らもバレるに決まってる!』

 

と少し声を荒げた。

 

『でも、あの女、、、俺達に何かする気あるのかな?』

俺『?』

 

慎が言いだした。

 

『だってこの前俺ら学校帰りにあの女に出会ったじゃん。もし何かするつもりならあの時でも良かった訳じゃん。』

俺『・・・』

慎が続けて『それに山・・・もし俺らのことを許してないなら山に何らかの呪い彫りとかあってもいーはずじゃん。』

俺『・・・』

 

たしかに・・・

山に行った時、確かに新しい『俺達に対する』呪い的な物は無かった。

秘密基地は壊されていたが・・・

新しい『女の子の釘刺し写真』はあったが、俺達・・・まして、フルネームが バレている淳の『呪い彫り』は無かった。

 

俺は内心『そーなのかな?』と反論したかったが、しなかった。

それは、慎の言うとうり実は俺達が思っている程『中年女』は俺達の事を怨んでいない、忘れかけている。

と思いたかった。

慎はもう一度・・・

 

『俺らを本気で怨んでいるなら何らかのアクションを起こすはずだろ?』

 

と、まるで俺を安心さすかのように言った。

 

そして『学校の近くをウロついてるのも、俺らを捜してるんぢゃなく《写真の女の子》を捜してる可能性もあるだろ?』

 

と言葉を続けた。

 

『そーか・・・』

 

俺はその慎の言葉を聞いて少し気持ちが楽になった感じがした。

と言うか慎の言った言葉を自分自身に言い聞かせ、自分自身を無理矢理納得させようとした。

それは【現実逃避】に近いかもしれない。

慎自身もそうだったのかも知れない。

もう『中年女』から逃げる術が見つからず、言ったのかも知れない。

しかし俺は・・・俺達は・・・

 

『そーだよな!そのうち俺らのことなんて忘れよる!』

『もう忘れとるって!』

『なんだよチクショー!ビビって損した!』

『ほんま、あの女、泣かしたろか!』

 

とお互い強がって見せた。

ある意味やけくそに近いかもしれない。

 

しばらくその場で慎と『中年女』の悪口など、談笑していた。

辺りは薄暗くなり始め、俺達は帰宅することにした。

慎と別れる道に差し掛かって・・・

 

『明日の帰り、淳の様子見に行こっか!』

『おう!そやな!』

 

とお互い明るく振る舞って手を振り別れた。

俺の心は少し晴れやかになっていた。

 

『そーだよな・・慎の言う通り、中年女はもう俺達の事なんて忘れてるよな・・』

と・・・

 

まるで自己暗示のように繰り返し言い聞かせた。

足取りも軽く、石を蹴りながら家に向かった。

空を見上げると雲も無く、無数の星がキラキラ輝き、とても清々しい夜空だった。

今まで『中年女』の事でウジウジ悩んでいたのが馬鹿らしく思えた。

自宅に近づき、その日は見たいアニメがあるのに気付き、俺は小走りで家に向かった。

 

『タッタッタッタッ、、、』

 

夜の町内に俺の足跡が響く。

 

『タッタッタッタ、、、』

 

静かな夜だった。

 

『タッタッタッタッ、、、』

 

ん?

 

『タッタッタッタッタタタ・・・』

 

俺の足音以外に違う足音が聞こえる。

後ろを振り向いた。

暗くて見えないが誰もいない。

気のせいか。。

なんだかんだ言って俺は小心者だなと思いながら再び走った。

『タッタッタッタッ。。。』

『タタッッタタタタ・・・』

 

・・・ん?

誰かいる・・・

俺はもう一度立ち止まり、目を凝らして後ろを眺めた。

 

・・・やっぱり誰もいない・・・

 

確かに俺の足音にマジって後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえたのだが?!

俺も淳のように自分でも気付かないうちに精神的に『中年女』追い詰められているのか?

ビビり過ぎているのか?

しばらく立ち止まり、ずーっと後ろを眺めた。

 

ドックンドックン鼓動を打っていた心臓が、一瞬止まりかけた。

15メートルほど後方、民家の玄関先に停めてある原付きバイクの陰に誰かがしゃがんでいる。

いや、隠れている。

月明かりでハッキリ黙視できないが一つだけハッキリと見えたものがある。

 

『コートを着ている!』

 

しばらく俺は固まった。

隠れている奴は俺に見つかっていないと思っているようだが、シルエットがハッキリ見える!

俺は一瞬混乱した。

 

『中年女だ!中年女だ!中年女だ!中年女!中年女!』

 

腰が抜けそうになったが、本能だろうか、次の瞬間・・・

 

『逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ逃げなきゃ!』

 

ともう一人の俺が、俺に命令する。

俺は思いっきり走った!

運動会の時より必死に走った。

もう風を切る音以外聞こえない程、無呼吸で走った。

無我夢中で家に向かって走った。家まであと10メートル!

よし!逃げ切れる!

 

『!』

 

一瞬、頭にあることがよぎった。

 

【このまま家に逃げ込めば間違いなく家がバレる!】

 

俺はとっさに自宅前を通過し、そのまま住宅街の細い路地を走り続けた。

当てもなく、ただ俺の後方を着いて来ているであろう『中年女』を巻く為に・・・

5分ほど、でたらめな道を走り続けた。

さすがに息がキレて来て歩きだし、後ろを振り向いた。

もう、『中年女』らしき人影も足音も聞こえて来ない。

 

俺は周囲を警戒しつつ、自宅方面へ歩き始めた。

再び自宅の10メートル程手前に差し掛かり、俺はもう一度周囲を警戒し、玄関にダッシュした。

両親が共働きで鍵っ子だった俺はすばやく玄関の鍵を開け、 中に入り、すばやく施錠した。

 

『・・・フぅー・・・』

 

安堵感で自然とため息が出た。

とりあえず慎に報告しなければと思い、部屋に上がろうと靴を脱ごうとした時、玄関先で物音がした。

 

『!?』

 

俺は靴を脱ぐ体制のまま固まり、玄関扉を凝視した。

俺の家の玄関は曇りガラスにアルミ冊子がしてある引き戸タイプなのだが、曇りガラスの向こう側に・・・

玄関先に誰かが立っている影が映っていた。

玄関扉を挟んで1メートル程の距離に『中年女』がいる!

 

俺は息を止め、動きを止め、気配を消した。

いや、むしろ身動き出来なかった。

まるで金縛り状態・・・

『蛇に睨まれた蛙』とはこのような状態の事を言うのだろう。

曇り硝子越しに見える『中年女』の影をただ見つめるしか出来なかった。

 

しばらく『中年女』はじっと玄関越しに立っていた。

微動すらせず・・・

ここに『俺』がいることがわかっているのだろうか・・・?

その時、硝子越しに『中年女』の左腕がゆっくりと動き出した。

そして、ゆっくりと扉の取手部分に伸びていき、『キシッ!』と扉が軋んだ。

 

俺の鼓動は生まれて始めてといっていいほどスピードを上げた。

『中年女』は扉が施錠されている事を確認するとゆっくりと左腕を戻し、再びその場に留まっていた。

俺は依然、硬直状態・・・

すると『中年女』は玄関扉に更に近づき、その場にしゃがみ込んだ。

そして硝子に左耳をピッタリと付けた。

室内の様子を伺っている!

 

鮮明に目の前の曇り硝子に『中年女』の耳が映った。

もう俺は緊張のあまり吐きそうだった。

鼓動はピークに達し、心臓が破裂しそうになった。

『中年女』に鼓動音がバレる!と思う程だった。

『中年女』は二、三分間、扉に耳を当てがうと再び立ち上がり、こちら側を向いたまま、ゆっくりと、一歩ずつ後ろにさがって行った。

少しづつ硝子に映る『中年女』の影が薄れ、やがて消えた。。

 

『行ったのか・・・?』

 

俺は全く安堵出来なかった。

『中年女』は去ったのか?

俺がここ(玄関)にいることを知っていたのか?

まだ家の周りをうろついているのか?

もし、『中年女』に俺がこの家に入る姿を見られていて、『俺の存在』を確信した上で、さっきの行動を取っていたのだとしたら、間違いなく『中年女』は家の周囲にいるだろう・・・

 

俺はゆっくりと、細心の注意を払いながら靴を脱ぎ、居間に移動した。

一切、部屋の明かりは点けない。

明かりを燈せば『俺の存在』を知らせることになりかねない。

俺は居間に入ると真っ直ぐに電話の受話器を持ち、手探りで暗記している慎の家に電話をかけた。

3コールで慎本人が出た。

 

『慎か?!やばい!来た!中年女が来た!バレた!バレたんだ!』

 

俺は小声で焦りながら慎に伝えた。

 

『え?どーした?何があった?』

 

と慎・・・

 

『家に中年女が来た!早く何とかして!』

 

俺は慎にすがった。

 

慎『落ち着け!家に誰もいないのか?』

俺『いない!早く助けて』

慎『とりあえず、戸締まり確認しろ!中年女は今どこにいる?』

俺『わからない!でも家の前までさっきいたんだ!』

慎『パニクるな!とりあえず戸締まり確認だ!いいな!』

俺『わかった!戸締まり見てくるから早く来てくれ!』

 

俺は電話を切ると、戸締りを確認しにまずは便所に向かった。

もちろん家の電気は一切つけず、五感を研ぎ澄まし、暗い家内を壁づたいに便所に向かった。

まずは便所の窓をそっと音を立てず閉めた。

次は隣の風呂。

風呂の窓もゆっくり閉め、鍵をかけた。

そして風呂を出て縁側の窓を確認に向かった。

廊下を壁づたいに歩き縁側のある和室に入った。

縁側の窓を見て違和感を覚えた。

いや、いつもと変わらず窓は閉まってレースのカーテンをしてあるのだが、左端・・・

人影が映っている・・・

 

誰かが窓の外から、窓に顔を付け、双眼鏡を覗くように両手を目の周辺に付け、室内を覗いている。

家の中は電気をつけていない為、外の方が明るく、こちらからはその姿が丸見えだった。

窓に『中年女』がヤモリの如く張り付いている。

俺は腰が抜けそうになった。

 

これは【動物の本能】なのだろうか?

肉食獣を見つけた草食動物のように、俺はとっさにしゃがみ込んだ。

全身が無意識に震えていた。

『中年女』からこちらは見えているのか?

『中年女』はしばらく室内を覗き、そのままの体勢で、ゆっくりと窓の中心まで移動して来た。

そして『キュルキュルキュルキュル』と嫌な音が窓からしてきた。

『中年女』の右手が窓を擦っている。

左手は依然、目元にあり、室内を覗きながら・・・

 

『キュルキュルキュルキュル・・・』

 

嫌な音は続く、俺の恐怖心はピークに達した。

何かわからないが、『中年女』の奇行に恐怖し、その恐怖のあまり、声を出す事すら出来なかった。

すると『中年女』はとったに後ろを振り返り、凄い勢いで走り去って行った。

俺は何が起きたかわからず、身動きも出来ずに、ただ窓を見ていた。

すると、窓の向こうの道路に赤い光がチカチカしているのが見えた。

 

「警察が来たんだ!」

 

俺は状況が飲み込めた。

偶然通りかかったパトカーに気付き、『中年女』は逃げて行ったんだと。

しばらく俺はしゃがみ込んだまま震えていた。

 

『プルルルルル!』

 

その時、電話が突然鳴った。

もう心臓が止まりかけた。

ディスプレイを見ると慎の自宅からの電話だった。

俺は慌てて電話に出た。

 

慎『どう?』

俺『なんか部屋覗いとったけど、どっか行った。。。』

慎『そっか、親帰って来たんか?』

俺『いや、たまたまパトカー通って、それにビビって中年女逃げたんや思う。』

慎『そーなんや!良かった。俺、お前んちの近くに不審者がいるって通報しといてん。でも、あいつに家バレたんやったら、そろそろ親にも相談しなあかんかもな。。』

俺『・・・』

慎『俺も今日、親に言うから。。お前も言えよ!もうヤバイよ!』

俺『・・・うん・・・』

 

そして電話を切った。

その30分後、母親がパートから帰って来た。

俺は部屋の電気を消したまま玄関に走り、母の顔を見た瞬間、安堵感からか、泣き出した。

母親はキョトンとしていたが、俺はしばらく泣き続けた後・・・

 

『ごめんなさい、』

 

と冒頭に謝罪をし、『あの夜』の出来事から『さっき』の出来事まで説明した。

説明の途中、父親も帰宅し、父には母が説明した。

その後、父が無言で和室の窓硝子を見に行った。

窓硝子は鋭利な何かで凄い傷が付けられていた。

『鋭利な何か』が『五寸釘』だと直感でわかった。

両親は俺を叱らず、母親は俺を抱きしめてくれ、父は警察に電話をかけていた。

10分程してから警察が来た。

 

警察には父が事情を説明していた。

俺はしばらくの間、母親と居間にいたが、少ししてから警官が居間に来て『あの夜』の事を聞いてきた。

ハッピーとタッチの事、木に釘で刺された少女の写真の事、淳の名前が秘密基地に彫られていたこと・・・

その後、放課後に出会った事など、『中年女』に係わる全ての事を話した。

そして『さっき』の出来事も・・・

 

鑑識らしき人も来ていて、俺が話している間に窓の指紋を採取していた。

俺が話した内容で警官がもっとも詳しく聞いてきたことが『少女の写真』の事だった。

『その少女』の容姿や面識の有無等聞かれたが、それについては『よく解らない。』と答えるしかなかった。

そして裏山の地図を書かされ、翌日、警察が調べに行くと言う事になり、自宅周辺の夜間パトロール強化を約束して警察官は帰っていった。

結局、指紋は出なかった。

 

しばらくして、慎・淳の親から電話がかかってきた。

親同士で何やら話していたが『中年女』に関する話、というより、学校にどのように説明するかを話していたようだ。

その夜、俺は何年かぶりに両親と共に寝た。

恥ずかしさなど微塵も無く、純粋に『中年女』が怖く、なかなか寝付け無かった。

 

次の日の朝、母親に起こされた時にはすでに午前8時を回っていた。

『遅刻する!』と慌てると母が『今日は家で寝てなさい。』と言う。

どうやら既に学校に事情を話したらしい。

父はすでに出社していたが、母はパートを休んでいた。

『おそらく、慎や淳も今日は学校を休んでいるだろう・・・』と思ったが、あえて電話はしなかった。

慎は恐らく、厳格な両親に怒られて、淳の両親は『不登校』になった淳の真実を知り、ショックを受けているだろうと思うと電話するのが恐かったから。

俺は自室に篭り、『中年女』が早く警察に捕まることだけを願っていた。

一時も早く追い詰められる『恐怖』から解放されたかった。

 

母親は何故か『中年女』の事を口にしてこなかった。

俺への気配り?と思い、俺も何も言わなかった。

昼飯を食べ、ふたたび自室に篭っていると、『ドスっ』と家の外壁に鈍い音が響いた。

俺はとっさに『慎だ!』と思った。

あいつは俺を呼び出す時、玄関の呼鈴を鳴らさず、窓に小石を投げてくる事がしばしばあったからだ。

俺は窓から外を眺めた。

家の前の路地にある電柱に慎がいるはず!と思ったが、慎の姿は無かった。

 

どこかに隠れているのかと思い、見える範囲で捜したが何処にもいない。

その時、俺の部屋の下にあたる庭先から『キャ!』と母親の声がした。

びっくりして窓を開け、身を乗り出し、下を見た。

そこには母親が地面を見つめながら口元に手を当てがい、何かを見て驚いていた。

俺は何が起こっているのか解らず・・・

 

『どーしたの!』

 

と聞いた。

母は俺の声にギクッと反応し、こちらを見上げ、驚いた表情で無言のまま家の外壁を指差した。

俺は良からぬ感じを察したが、母の指差す方向を見た。

そこには何やらドロっとした紫色した液体とゼリー状の物が付いていた。

先程の『ドスっ』の音の正体であろう。

視線を母の足元に落とし、その何かを捜した。

そこには内蔵が飛び出た大きな牛蛙の死体が落ちていた。

母はしばらく呆然と立ち尽くしていた。

 

俺はすぐに『中年女』が頭に浮かんだ。

すぐに目で『中年女』の姿を捜したが何処にも姿は見えなかった。

母はふと思い出したように居間に駆け込み、警察に電話をした。

母は青い顔をしていた。

恐らくこの時、始めて『中年女』の異常性を知ったのだろう。

 

そうだ、あの女は異常なんだ。

きっと今も蛙を投げ込んできた後、俺や母の驚く姿を見てニヤついているはず・・・

きっと近くから俺を見ているはず・・・

鳥肌が立った。

『警察早く来てくれ!』心の中で叫んだ。

 

もうこの家は『家』では無い。

『中年女』からすれば『鳥籠』のように俺達の動きが丸見えなんだ。

常に見られているんだと感じ出した。

しばらくしてパトカーがやってきた。

昨日とは違う警官二人だった。

警官一人は外壁や投げ込んで来たであろう道路を何やら調べ、もう一人は俺と母に・・・

 

『何か見なかったか?』

『その時の状況は?』

 

などなど、漠然とした事を何度も聞いて来た。

最後に警官が不安を煽るような事を言って来た。

 

『たしか、昨日もいやがらせを受けているんですよね?おそらく犯人はすぐにでも同じような事をしてくる可能性が高いです。』

 

と・・・

俺はたまらず・・・

 

『あの呪いの女なんです!コートを着てる40歳ぐらいの女なんです!早く捕まえてください!』

 

と半泣きになって懇願した。

すると警察官は・・・

 

『さっきね、山を見てきたんだよ。。。犬の死体も板に彫られたお友達の名前も、あと女の子の写真もあったよ。今からそれを調べて必ず犯人捕まえるから!』

 

と言い、俺の肩をポンと叩くと、母の元へ行き、何やら話していた。

『主人に連絡を・・』みたいな事を言われていたようだ。

壁に付いた蛙の染み、及びその死体の写真を撮り、1時間程で警官達は帰って行った。

↓↓↓ 後編に続く・・・ ↓↓↓

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『危険な好奇心(前編)』怖い話シリーズ100

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