とある浮浪者の身に起こった、ちょっと不思議な怖い話・・・
『神社の生活』
これは五年程前からの話です・・・
当時、私は浮浪者でした・・・
東京で縄張り争いに敗れて危うく殺されかけ・・・
今回は怖ろしい怪談話『神社の生活』をお伝えします。
毎度おなじみ心霊界の石原さとみこと、コワイキョウコです・・・
怪談や怖い話に付き物の幽霊・・・
地縛霊と化して、道行く人に災いをもたらす・・・
無念の思いを抱えて、成仏出来ずにこの世をさまよう・・・
取り憑いたり呪ったりと、まあ怖いことこの上ない感じですが(汗)
そんな幽霊も元は人間だったんですよね・・・
と言うことは、ちゃんと心や感情があるってことですよね・・・
それならたとえば成仏出来ずにいるなら、しっかりと供養するとか粗末に扱ったりしないとか・・・
そんな感じで何か幽霊のためになることをしてあげれば、災いをもたらされることもなさそですよね(汗)
幽霊に心や感情があればの話ですが(汗)
それでは怖い怖い怪談話・・・
『神社の生活』
どうぞお楽しみください・・・
※このお話は3分ほどで読むことができます。
『神社の生活』怖い話シリーズ157
これは五年程前からの話です。
当時、私は浮浪者でした。
東京の中央公園で、縄張り争いに敗れて危うく殺されかけ・・・
追放されたあと、各地を転々とし・・・
最後に近畿地方の、とある山中の神社の廃墟に住まうようになりました。
当時の収入源は山のふもとに下りて、何でも屋と称して里の人の手伝いをし、手間賃をいただく・・・
そんな感じで食いつなぐ、身の上でした。
その生活の中で一番恐ろしかったのは、人間です。
「何でも屋です。何が御用はございませんか」
そういっただけで、いきなり猟銃を向けられた事も御座います。
「一度弾を込めたまま人間に向けてみたかったんだ。ほらよ」
そんなセリフと口止め料まがいの金を渡されましたね。(恐怖に慄いた代金は一万円でした)
付近を走る暴走族に「お前に人権はねえ」と追い回され・・・
棒切れで叩かれた挙句、足が折れたこともございます。
その時はよく手伝いにいくかわりに、野菜を分けていただいてた農家の方が様子を見に来てくださり、あやうく歩けずに餓死するところを救われました。
さらには病院にかかる代金までもっていただいたことは、今も感謝しています。
その農家の方からはさまざまな恩を受けました。
「手に職はあったほうがいい。うちじゃ雇ってやれないからせめて作物を育ててみて」
そのように仰り、色々な苗や種を分けていただきました。
荒れた境内の砂利を少しよけて。硬い土をたがやし・・・
近くの川からへたくそな水路をひいて引き入れ・・・
そうこうやっている内に、ちょっとした農園をつくるに至りました。
ある時、何度かこの付近を訪れていた茶髪の廃墟探検の人たちに、大量の除草剤を撒かれたことで農園は全滅してしまいました。
私はこういう団体が来る度、暴走族の一件を思い出して隠れるようにしていたのですが、このときほど角材でももって殺してやりたいと思った事は御座いません。
そこでの生活は、どなたかから恩を受け、それをどなたかに奪われることの繰り返しでした。
こうした生活をしていると、不思議と心が澄んできます。
所詮、人間は悪徳の持ち主ばかりだと悟るのです。
そして、徳の高く優しい人たちにあこがれるようになります。
そういう風になってくると、別に幽霊を見ても必要以上に恐くなくなります。
実はこの神社、社務所にほんとに幽霊が出たんです。
髪がぼさぼさで、白着物に朱袴の女性でした。
生活し始めの頃に気づき、以来おびえて社務所には近づかず、物置小屋で暮らしておりました。
しかし、悟ってしまった頃から頻繁に社務所に出入りするようになり・・・
大工の親方とも知り合い、古くなった工具を分けてもらったのが四年前・・・
仕事をおぼえてみるついでに、社務所の修理をはじめました。
出て行け!
たたり殺すぞ!
最初は幽霊のお嬢さんに、そんなことを言いたげな目で睨まれてましたよ。
何度かちびりました。
でもね、修理をして雑巾がけをしてとしていくうちに、だんだん付き合い方をおぼえました。
まず必要以上にうるさくしない。
次に神さんじゃなくて、その人に挨拶をしてから入り、出るときも挨拶して出る。
社務所が綺麗になる頃には、幽霊のお嬢さんが出てきても穏やかな表情をするようになりました。
たまにさらさら音が聞こえたような聞こえてないような時は、決まって髪を櫛擦ってる。
二年前、私の足を折った暴走族がまた境内へとあがってきましてね。
私、逃げ切れずにつかまって、袋叩きにされました。
頭もなぐられてぐわんぐわんいってましてね。
足なんか痙攣してて立ち上がって逃げようにもすぐ転ぶ。
深夜の話なんで、昼間と違い助けも望めず・・・
こりゃあ幽霊巫女さんの、お仲間になるなと思いました。
若者達はへらへらと笑っているし、私がもう命の限界に近いなんて理解もしてないようでした。
すると、驚いた事に境内をかけあがってくる足音がする・・・
暴走族たちも、私を殺そうとする手を休めてそちらをみました。
するとふもとの危ない猟銃持ちのおじさんがやってきて、いきなり銃を暴走族達に向けるじゃありませんか。
しかも発砲したんですよ。
わざと外したようですがね。
暴走族が慌てて逃げ出したのをみて、私意識失いました。
病院で目を覚ました後、見舞いにやってきたおじさん。
聞けば、巫女の幽霊に夢の中で脅かされ・・・
飛び起きたら目の前に血走った目をした巫女の幽霊がいた・・・
そんな肝の縮まる思いをしたそうで、そこで幽霊撃つために銃を取り、銃床でなぐりつけたそうです。
でも何故か素通りだったそうですよ。
あまりの恐さに逃げ出したら、おっかけられて神社までおいたてられたと・・・
だから私ね、実はあの廃墟にゃ巫女の幽霊が出るんだよって切り出して、社務所の修理と巫女の幽霊が恐くなくなったとこまで話してやったんです。
そしたらおじさん「そりゃあんた幽霊と内縁の夫婦になってるよ」と真顔で言ってました。
幽霊さんには退院して、真っ先にお礼しましたよ。
以来ちょっと生活苦しくても巫女さんのために一膳のご飯用意してね。
嫁の飯も用意できないんじゃ男廃りますし。
たぶんあれはただの夢ですが、巫女さんと何度も一晩中貪りあった。
祝言もあげましたよ。
神主もいない神社ですが、まあ神前結婚の気分てね。
後日談
一年前。
この神社の廃墟を含む山の所有者って方がやってらっしゃいましてね。
元々はこの神社の神主の一族だって、話してらっしゃいました。
この神社別に霊験あらたかでもないし、歴史的に由緒あるわけでもなし・・・
終戦後の神道の混乱期に神主不在となって以来、荒れ放題だったとか・・・
ところがみすぼらしいのは同じでも、神社がすっかり生気溢れてることに感激したって泣き出しましてね。
私に神社のある山と、ふもとの農地ををくださったんです。
どうせ二束三文の土地なら、活用してくれる人にもっててほしいってね。
農地はよくしてくれた農家の方に安く貸し出し、私は今東京に出稼ぎにでてます。
なかなか家にはもどれんので、嫁が夢に出てくることが多いです。
でもね・・・
いつかこっちもくたばって、その後ずっと一緒にいれるんだから、しばらくは我慢してもらわないと・・・
今は金をためて、私らが死後くらすあの神社をもっとちゃんと修繕して、もう一度ちゃんと神社として神主を迎えられる状態にしないといけないのです。
『神社の生活』怖い話シリーズ157
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