片田舎の養鶏場で起こった怖ろしい話・・・
『 ヒギョウさま』
私の母方の実家は島根で養鶏場をしており・・・
毎年夏休みには母親と姉・弟・私の4人で帰省していた・・・
ある年の帰省時、深夜に鶏の孵化室に向かう祖父を見かけ中に入ると・・・
今回は不思議で怖い怪談話『 ヒギョウさま』をお伝えします。
毎度おなじみ心霊界の石原さとみこと、コワイキョウコです・・・
ただの迷信?
地方によっては、独特の迷信じみた掟みたいなものがあったりしますよね・・・
夜に○○をするなとか、○○を捨てる時は○○しろみたいな・・・
あれって、破ると何か悪いことがあるんですかねぇ?
やっちゃイケナイとか言われると、ちょっとやって見たくなりますよね・・・
それでは怖い怖い怪談話・・・
『ヒギョウさま』
どうぞお楽しみください・・・
※このお話は6分ほどで読むことができます。
『ヒギョウさま』怖い話シリーズ59
今はもう廃業していますが、私の母方の実家は島根で養鶏場をしていました。
毎年夏休みには母親と姉・弟・私の4人で帰省していました。
父は仕事が忙しく休めず、毎年家に残っていました。
母の実家は島根県の邑智郡と言うところで、よく言えば自然豊かな日本の原風景が広がる土地、まあはっきり言って田舎です。
そこでいつも一週間くらい滞在して、お爺ちゃんお婆ちゃんに甘えながら楽しく遊びました。
田舎のことですのでお爺ちゃんもお婆ちゃんも朝がとても早く、夜がこれまたすごく早い。
朝4時ころには起きて、一番鶏が鳴く前に養鶏場の鶏に飼料をやり始め、そのまま糞をとったり玉子を回収したり孵化器を見たりの作業をしつつ、畑の手入れをし、夕方の5時ころには作業をやめて夕食、そして夜の7時ころには晩酌のビール片手にうつらうつらし始めるのです。
自然と私達も夜の8時ころには布団に入るのですが、そんな早くから寝られるものではありません。
布団の中でその日行った川での出来事や、明日何をしようか等考え始めると目が完全に冴えてしまい、寝られなくなりました。
夜中、真っ暗な天井の梁を見るともなしに見ていると、私達の居る居間の隣、お爺さん達の寝ている六畳間のふすまが開く音がし、廊下をギシギシと誰かが歩き、玄関をあけて出て行きました。
そのまま夢うつつでボーっとしていると、しばらくして柱時計がボ~ンボ~ンと12回鳴り・・・
「(ああ、もうそんな時間か・・・)」と思いました。
すると5分くらいして玄関の開く音がし、誰かがサンダルを脱ぎ廊下をまたギシギシと歩き、六畳間へ入っていきました。
(お爺ちゃんかお婆ちゃんが鶏の様子か畑の様子でも見に行ったのだろう。)
そう思い、あれこれ想像しているうちに寝たようで、気が付くと朝になっていて、皆もう朝ごはんを食べていました。
夢うつつの状態での出来事だったので夢かもしれないと思いましたが、その日の夜、また眠れずに居ると、やはり同じように夜中に誰かが外に出て、同じようにしばらくして戻ってくるのです。
次の日も、また次の日も、どうやらその誰かは毎晩23時30分に出て行き、0時5分ころ戻ってくるようです。
昼間に姉と弟に聞いてみても、二人ともぜんぜん気付いていない様子でした。
大人のする事にはなんでも興味があった頃のことです。
私は誰が何をしているのか見てみたいと思いました。
5日目、昼間あまり騒がないようにして体力を温存し、眠らないようにしてその誰かの後をつけることにしました。
これまで毎晩眠れなくて困っていたのに、眠らないようにしようと思うと今度は眠たくなるもので、危うく寝過ごすところでしたが何とかその誰かの気配で目を覚ますことが出来ました。
気配が玄関を出て行くの待って、私も玄関へ行き、サンダルを履いて外に出ると、お爺ちゃんが母屋から50mくらい離れたところにある孵化室の中へ入っていくところでした。
孵化室というのは鶏の生んだ玉子を孵化器で暖めて孵し、生まれた雛をある程度まで育てる専用の建物で、本来なら孵化所とでも呼ぶべきなのでしょうが、お爺ちゃんは孵化室と呼んでいました。
私もそっとお爺ちゃんの後に入ってみると、中は照明が付いておらず、孵化器の中から漏れるヒヨコ電球のボンヤリとした赤い光だけが頼りでした。
薄暗いと言うかコタツの中のような赤暗い中で、お爺ちゃんは凄く真剣な顔で孵化器の中を覗いていました。
そしてたくさんある玉子の中から3つほど取り出し、玉子から顔をそむけると、いきなりブリキのゴミ箱に叩きつけました。
私はビックリして・・・
「なにしょうるん?」
と大声で言ってしまいました。
お爺ちゃんは私以上にビックリした様子で、倒れるんじゃないかと心配になるくらいの形相でしたが、私だと分かると安心したのか全身の力が抜けたようになって
「なんじゃ、坊か、ビックリさすなや」
と苦笑いを浮かべました。
私がもう一度・・・
「なにしょうるん?」
と聞くと、お爺ちゃんは・・・
「悪いんをとりょうるんよ」
と言って、また孵化器の中を覗き始めました。
私はそれまでに孵る前の雛を間引くなぞ聞いたことも無かったので・・・
「ヒヨコに悪いんがおるん?」と聞きました。
お爺ちゃんは・・・
「ほうよ、取らにゃあ大変なことになるんよ」
と言って、孵化器の中からまた一つ玉子を取り出しました。
私は玉子を良く見ようと覗き込みましたが、お爺ちゃんがあわてた様子で・・・
「いかん!こりゃ見ちゃダメじゃ!目が潰れるで!」
と言ってすぐにブリキのゴミ箱の中に玉子を叩きつけてしまいました。
私が見た玉子には、中から雛が突いたのでしょう、大きなヒビが入っており、もうじき雛が孵りそうな様子でした。
ゴミ箱の中はスプラッタな様子が容易に想像できたので見たいとも思いませんでしたが、お爺さんは私の目から隠すようにすぐに蓋をしていました。
その時、ゴミ箱の蓋に何か白い紙のようなものが貼ってあるのが見えました。
何だろうと思っているとお爺ちゃんが腕時計を見て・・・
「0時を回ったけえ、今日は終わりじゃ。坊、帰って寝ようや」
と言い、すぐに孵化室から出ようとしました。
私も夜中にこんな不気味なところへ一人で残されるのは御免なので、慌てて一緒に孵化室を出ました。
そのとき、孵化室のドアの横になにか玩具のようなものが見えたような気がしましたが、もう眠いし、ちょっと怖くなってきたので次の日見ることにして、お爺ちゃんと一緒に母屋へ帰り、その晩はお爺ちゃんの布団で一緒に寝ました。
次の日。
午前中、弟と虫取り遊びをし、帰って早めの昼食を摂っていると何か違和感を覚えました。
(ああそうだ、今日はお爺ちゃんがお昼ご飯居るんだ)
よく考えてみると、それまでお爺ちゃんと一緒に昼食を摂った記憶がありません。
いつもお昼の11時30分頃から姿が見えなくなっていたのです。
その日は村の寄り合いがあるとかで朝から出かけており、11時頃ベロベロに酔っ払って帰ってきて、一緒に食卓を囲んだのでした。
お爺ちゃんは白飯に冷たい麦茶と漬物でお茶漬けにして食べていましたが、途中で食卓に突っ伏して寝てしました。
私達は起こしちゃ悪いと思って静かに食事を済ませ、外に遊びに行きました。
外に出てから前の晩にチラッと見た孵化室の玩具のようなものを思い出し、弟と一緒に見に行くことにしました。
それは、玩具ではありませんでした。
ペンキのようなもので鏡面を朱色に塗られた手鏡。
粘土で作られた小さな牛の像。
プラスチックの安そうな造花。
昨夜はそのカラフルな色合いから、玩具のように見えたのでしょう。
しかし、それらはなんに使うものかまったく見当も付きませんでした。
その時、私はお爺ちゃんが昨夜玉子を捨てていたゴミ箱に気が付きました。
昨夜は暗くてよく分かりませんでしたが、明るいところで見ると、そのゴミ箱の蓋には昔風の線を崩した読めない字で何か書いてある御札のような紙が一杯貼ってありました。
その時、弟が声をあげました。
「あっ!生まれとるで!・・・え、・・・何・・アレ・・・」
どうやら、孵化器を覗いていて、玉子が孵っているを見つけたようです。
私は、生まれたての雛を見たくて孵化器の扉を開けました。
すると・・・雛?がいました。
しかし、その雛?は他の雛とは何かが違いました。
良く見ると、他の雛達と違い、全く震えていませんでした。
全くさえずっていませんでした。
そして眼が、眼だけが、人のそれでした。
ソレは孵化器の棚からドサッと土間へ落ちると、首を振らず、スタスタと歩いていきました。
私はその異様さに、動くことができませんでした。
ソレが孵化室を出て西のほうへ歩いていき、見えなくなるとようやく、金縛りが解けたように動けるようになりました。
そして弟の方を見ると、弟は涎をダラダラと流し、眼は焦点が合わず、呼びかけても呼びかけても反応がありませんでした。
私が大声で弟の名を何度も呼んでいると、お爺ちゃんとお婆ちゃんが息を切らして飛び込んできました。
「おいっ!!見たんか!!」
私はお爺ちゃんの形相が恐ろしくて「見てない」と答えました。
お爺ちゃんは私の眼を見ながら・・・
「見とるじゃろ。どっち行ったんなら?」と怖い眼で聞きました。
「あっち」と、私はアレが去っていった西のほうを指差しました。
するとお爺ちゃんは出入り口のドアの横においてあった粘土の牛の像と造花を持って、私の指差した方へ走っていきました。
お婆ちゃんは弟の名を何度も呼んでいましたが、弟は涎を流すばかりでなんの反応もしませんでした。
「ヒギョウさまと眼が合うたんか・・・」
お婆ちゃんは悲しそうに言いました。
「もう直らんの?」
私は、弟とそれを見るお婆ちゃんに、幼いながらもただならぬ様子を感じ、そう尋ねました。
「いや・・・坊、そこの赤うに塗っとる鏡を取ってくれ。」
私が鏡面を朱色に縫られた手鏡を手渡すと、お婆ちゃんは・・・
「見ちゃあいけん、母ちゃんのところへ行っとき。」と、私を孵化室の外へ出しました。
私は母と姉のところへ行きましたが、母に何と話していいものか、何も言えずに母に抱きついていると、弟とお婆ちゃんが戻ってきました。
私は歩いてくる弟を見て・・・
(ああなんでもなかったんだ。良かった)
とホッとしましたが、何か、弟に違和感を感じました。
話してみると、確かに弟です。
一緒に孵化室に行ったことや、昨日のこと、一昨日のことも覚えています。
しかし、どこか、何かが違うのです。
母も、弟に何かを感じたのでしょう。
お婆ちゃんに・・・
「お母ちゃん、まさか・・・」と聞きました。
お婆ちゃんは悲しそうに頷くだけでした。
それを聞いた母が、弟を抱きしめてワンワンと泣いたのを覚えています。
弟はキョトンとしていました。
姉は弟を薄気味悪そうに見ていましたが、母が泣くのを見て、やがて一緒に泣き出しました。
しばらくするとお爺ちゃんが帰ってきました。
「ダメじゃ、間に合わなんだ」
そう言って悲しそうに首を振りました。
「婆さん、誰かは分からんが遅うても2、3日の内じゃろう。喪服を出して風に当てといてくれ」
そう言うとお爺ちゃんは弟を抱きしめ、
「すまんのう、お爺ちゃんが寝とったけえ、こがあなことに・・・。ほんまにすまんのう・・・」
お爺ちゃんはボロボロと涙を流して謝りました。
弟は・・・
「何?お爺ちゃん痛いよ」
などと言っていました。
その声、そのしぐさ、確かに弟なのですが、やはりソレは弟ではありませんでした。
後からお爺ちゃんが教えてくれました。
「お天道さんの一番高い刻と夜の一番深い刻に生まれた雛は、御役目を持っとるんじゃ。じゃけえ、殺さにゃあいけんのよ。」
「夜に生まれた雛も『ヒギョウさま』になるの?」
と、私は聞きました。
「誰に・・・ほうか、婆さんが言うたんか。いや、違う。夜に生まれたんはもっともっと恐ろしいもんになるんじゃ」
そう言って、お爺さんは薄気味わるそうに孵化室のほうを見ました。
このときの話はこれで終わりです。
後に、私が高校の時に、実家が養鶏場を営んでいる同級生がいました。
そいつに『ヒギョウさま』について聞いてみると、最初は何のことか分からない様子でしたが、あの夏の出来事を話すと・・・
「ああ、『言わし鶏』のことだな」
と言っていました。
何でも、今ではオートメーション化が進み、センサーとタイマーにより、自動的に12時と24時に孵りそうな玉子は排除されるのだそうです。
あれからも毎年島根へ帰省しています。
弟は元気に小学校で教師をしています。
もう、以前の弟がどうだったか、覚えていません。
だからもういいのです。
アレから二十年も家族として暮らしてきたのですから、もう完全に家族なんです。
中身がなんであれ。
『ヒギョウさま』怖い話シリーズ59
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