オカルト・怖い話

『四角い部屋』怖い話シリーズ49

2020年6月7日

あるマンションにまつわる恐ろしい話・・・

『四角い部屋』

バイト先の同僚、上司とその客の男女6人・・・

その内、一人があるマンションにまつわる都市伝説的な話を始めた・・・

エレベーターで直結された最上階の「完全に四角い部屋」へ行くと・・・

意味が解るが、意味が解らなくなると言う謎・・・

今回は世にも恐ろしい怪談話『四角い部屋』をお伝えします。

怖異 恐子
皆さん、こんにちは・・・

毎度おなじみ心霊界の石原さとみこと、コワイキョウコです・・・

エレベーター直結の最上階の完全に四角い部屋・・・

そこへ行くと意味が解るが、意味が解らなくなる・・・

もうこの時点で意味が解らないけど、解るふりをしたい今日この頃なキョウコです・・・

それでは怖い怖い怪談話・・・

『四角い部屋』

どうぞお楽しみください・・・

※このお話は7分ほどで読むことができます。

『四角い部屋』怖い話シリーズ49

 

バイト先の仲間及び上司と肝試しをすることになった。

常連のお客様一人とそのご友人二人。

僕とユウキ(源氏名)、そしてガクト(仮)さん。

女二人、真ん中の人一人、男三人、計六人。

 

名目上はお客様へのアフターサービスと新しい顧客開拓の準備行為。

売上が急激に下がったのが、このようなサービス残業をする理由だ。

不況を理由には出来ない。

その時期にゴソっとお客様が来なくなったのだ。

サービス低下の証拠だろう。

 

潜在的な顧客を含めても、お客様三人に僕たち三人を当てるのは少々過剰だと思う。

だが常連のお客様は指名料ダントツのガクトさんを二時間以上拘束できる相当な太客。

なので、そのご友人にも期待をこめての放出なのだろう。

しかし正直言うと、ナンバー1であるガクトさんへの接待色が強い。

お客様三人も「あれ」が目的だ。

 

つまらない話だろうが、大声で笑う。

自慢話は褒め称える。

わざとらしく、大袈裟ぐらいが丁度いい。

外面、男女が六人で和気藹々。

内面、各人の思惑で虎視眈々。

 

「おい、リョウ。それお姉ちゃんマンションだろ?」

 

焚き火越しに、ガクトさんが僕の源氏名を呼ぶ。

照り返しで元々、深い彫りの顔立ちが、まるでマネキンのようだ。

 

「流石! これ、僕の地元の話だから勝算あったんですけど。マジ何でも知ってますね」

「お、そうなのか。何度塗りなおしても赤い文字で浮かび上がるんだってな。TVで見た」

「なにそれ~。怖~い」

 

男ではない、お客様予定の一人が黄色い声をあげる。

全く怖がっているようには見えない。

食虫植物のような凶悪なマスカラに彩られた目で、ガクトさんを見つめる。

どうやら既にガクトさんのことを気に入ったようだ。

言い忘れたが、女でもない。

ユウキが次の話に移る。

 

「じゃあ、ガクトさん、四角い部屋は?」

「あ。あーし、聞いたことあるかもぉ。四人が遭難して寝ないようにして、助かるのでしょ」

 

アピールするのはかまわないが、それではただの良い話だ。

 

「山岳部とかワンダーフォーゲル部だかの奴らが、遭難から命からがら帰還。実は、その生き残った方法に重大な欠陥があることに後で気づく、ってヤツか。有名な話。基本だな」

「知ってますねえ。なんでそんなに詳しいんですか?」

 

よいしょ、よいしょ。

僕の言葉にユウキが被せる。

 

「違います、そっちじゃないです。マンションとかホテルのペントハウス、エレベーターから直結する部屋あるじゃないですか。あんな感じで、エレベーターで四角い部屋に直結するらしいんす。聞いたことありますよね?」

「はあ? 部屋なんて大概、四角だろ?」

「俺も詳しくは分かんないんすけど、その部屋は完全に四角なんですって。やっぱり知らないんすか。・・・俺1点ゲットですね」

「何だよ、その完全な四角って。意味わかんねえよ」

 

確かに意味が分からない。

ただ四角い部屋に行くのが何故怖い話なのか。

恐らくは、元々意味のないものに意味を与える行為を楽しむ類の怪談なんだろう。

 

「じゃあ次、私の番ね。友達から聞いた話なんだけど――」

 

浜辺で一斗缶の焚き火を囲みながら話していた。

百物語のあとに心霊スポットに行くのが肝試しの王道だ、とガクトさんの案。

逆らう理由も力もない。

最初は百物語のつもりで話していたのだが、思いの他ガクトさんが怖い話を知っているため、徐々に趣旨が変わり、ガクトさんの知らない怪談を探すゲームになっていた。

今のところユウキの話以外は知っているようだ。

 

「あぁ、それ知ってる。足つかまれるオチ?」

「何で知ってるの、私もうないよ。ホントにガクト物知りだね」

 

百物語と言っても、百話も話すつもりがないのは全員理解している。

適当なところで心霊スポットの探索に行く予定だ。

本当にやるとしたら、六人で百話、一人当たり16、7話用意しなくてはならない。

普通なら知っている話など2、3話がいいところだ。

相当難しい。

 

百物語を終えた後には怪異が起こるというのも、こういった理由からなんだろう。

肝試しは仲間内での遊びだ。

肝試しをするのに集まる仲間など、多くても十人いないくらいだろう。

一人10話も話せないから、百話も話せない。

結局、百物語は終われない。

 

秒速で落下する流れ星に三回も願い事を唱えられないのと同じだ。

肝試し用の心霊スポットは、随分前から放置されている廃ホテルだった。

経営苦で自殺した社長が出るそうだが、恐ろしいのはむしろ、壁に落書きに来る暴走族や、風雨に晒されたビルの耐久性だろう。

いっそう仲良くなった様子のガクトさんとお客様たちを彼のマンションに送る。

 

どうか明日からウチの店に通ってくれますように×3。

流れ星ではないが、一応願っておく。

念のため。

僕たちも帰路に向かっているときにユウキが切り出した。

 

「なあ。さっきの四角い部屋の話なんだけど」

「ああ、あれは良くねえな。何なのお前、空気読めよ。分かってるだろ?」

「いや、ガクトさんなら大丈夫かと思ったんだよ。ダメだったけど。で、四角い部屋の謎解きに攻め込もうぜ、今から。チャレンジだ!リベンジだ!」

 

あっついなあ。

リベンジって意味分かってるのだろうか?

 

「何お前、マジネタなのかよ? ガキじゃねえんだからさ」

「マジネタも何も。まさかお前も?四角い部屋知ってるだろ?」

「ガクトさんが知らないネタ、僕が知ってるわけないだろ。有名なのかそれ」

 

ユウキが話した四角い部屋のルールはこうだった。

エレベーターで直結された部屋に行った者しか「完全な四角」の意味は分からないのだが、「完全」の意味が分かると意味が分からなくなる。

四角い部屋に行くことは誰でも出来るのだが、エレベーターの最大積載量を越えることは出来ない。

必ず一階からスタート。

エレベーターのボタンを下から上まで順に押す。

点灯を確認して、その後上に向かう。

 

止まる直前に非常ボタンを押す、そうするとランプが点灯したまま次の階に向かう。

それを最上階まで繰り返す。全てのボタンが点灯した状態で最上階へ。

最上階まで行けるとそこは「完全な四角い部屋」だという。

途中で人が乗るなどの邪魔が入ったり、階数のランプが全て光っていなければ失敗らしい。

 

「エレベーターに非常ボタンなんてあるの?」

「ははっ、俺も似たようなこと聞いたわ。非常ボタンってよりも非常マイクって言った方がよかったな。あれで管理人に繋がるんだよ」

「ああ、あれのことか。緊急停止用のボタンかと思った」

「エレベーター緊急停止して何の得があるんだよ。むしろ何かあったら急ぐだろ。面白いこと言うな」

 

非常ボタンを押すと、外部のメンテナンス会社に繋がるものとビル内の管理人に繋がるものがある。

今回、行くビルは管理人に繋がるタイプのものらしい。

やけに詳しい。

こいつ。

 

「お前、既に下見済みかよ」

「まあ、そんな感じ。途中で帰ってきたけどな」

 

路上に駐車し、歩くこと五分。

 

「着いた。ここ」

「え? コレ? 全然普通のビルじゃん。死ぬほどぼろいけど。電気は点いてるけどホントに人住んでるのか」

「あの潰れたホテルよりはマシだ」

 

ユウキは先導して入り口へとずんずん進む。

見たところ十階程度のマンションだ。

外灯からの距離が離れているせいか、建物の壁面が薄汚れた灰色をしているせいか、マンション管理会社が電気代をケチっているせいなのか分からないが、いやに暗い。

 

「これがそのエレベーター」

 

ボタンを押すとチンという音が鳴り、すぐさま扉が開いた。

しばらく誰も乗らなかったのか、中にある蛍光灯がチカチカと瞬きながら点く。

 

「あっそ。んで、どうするの?」

「まずは一階から十階までの階数を全部押す」

 

何度やっても全部は点かない。

若干飽きてきている僕とは正反対にユウキは必死だ。

当たり前だ。

今一階に止まっているのだから、一階のランプなんて点かない。

 

「なあ、謎解きしたいんだろ? 取り合えず一番上行こうぜ。それで解決するかもだろ?」

 

ユウキは僕の言葉を聞き、口をポカンと開け、呆けた。

 

「お前、頭良いな」

 

誰でも考え付きそうなものだが、お馬鹿なユウキ君は考え付かなかったようだ。

こいつジャニーズの高学歴アイドルに似てるのに天然だったのか、知らなかった。

しかし、頭が良いと言われてちょっと嬉しくなる僕もまた頭が悪いのだろう。

 

最上階に着く。

居住用の部屋のドアが通路の壁に均等に並んでいるだけだ。

天井の蛍光灯がパチパチ音を立て切れかけているのが少し怖い。

だが、通路が四角くもなければ、トワイライトゾーンに繋がっているわけでもない。

きっとこのエレベーターの怪談を知る者は、一階のエレベーターで悪戦苦闘して先に進めず・・・

そうか、何となく分かった。

 

「なあユウキ。俺、分かっちゃったんだけど」

 

一階に戻り、小学生のようにエレベーターのボタンを連打するユウキ。

見ていて滑稽だ。

 

「うるさい。今忙しい」

 

イライラが伝染する。

冷たく言う一言に、カチンと来る。

 

「ねえもう帰っていい? 僕疲れちゃったよ。主に精神面で」

「はあ!? ふざけんな! 俺と一緒に謎解くって言ったじゃねーか!」

 

いや言ってないし。

何熱くなってんだよ。

 

「もういいよぉ、飽きたよぉ」

「帰るんなら帰れよ!マジむかつくわリョウ。お前ぜってえ後悔させてやるからな」

 

おお、こわ。

それじゃあお言葉に甘えて帰らせていただきます。

クルマに乗り込んだのはいいが、帰りアイツ足どうするんだろ?という素朴な疑問と罪悪感が生まれた。

どうやら先ほどは僕も熱くなっていたらしい。

売り言葉に買い言葉だ。

ちょっとだけ待ってやるか。

 

prrrrr

「もし。リョウ今どこだ?」

 

ガクトさんからだ。

 

「お疲れ様です! まだ近くにいます。何かありましたか?」

「ちょっとお客さんの相手してくれね? 俺もう寝たい」

「了解です! すぐそっち行きます」

「ユウキもいるか?」

「今ちょっといないですけど、連れて行きます」

「頼む。早めにな」

 

先ほどのクサクサした気分とは一転、楽しくなってきた。

早くユウキを連れてピンク色のパーティーへと行こう、そんなことを考えながらユウキへと電話する。

 

「もしもーし、まだやってるのか?ガクトさんからお呼び出しだ、行くぞ」

「・・・マジかよ、分かった。・・・あ!点いた!」

「え? 点いたの?でももうダメ。ガクトさんの言うことに逆らうなんて健全な男子の僕には出来ないわ」

「あとちょっとだけ待っててくれ。頼む」

「ムリ。早くこっち来い」

「ちょっとだから、すぐに終わる」

「あのさあ言いたくないけど、それお前ハメられてんだよ。元々成功するはずないんだ。その怪談は――」

 

僕は、その怪談のカラクリを教えてやった。

一階のボタンが点灯した理由は分からないが、普通は到着階に着いたエレベーターのボタンの点灯は消える。

それが到着した合図だから、むしろエレベーターの設計上そうならなければならない。

全てが点灯した状態でどこかの階になどいけない。

少なくとも一つはボタンの光は消えている状態になっている。

動いている最中に押せば出来るが、それだと怪談のルールを破るし、そもそも降りるべき最上階に着いたら消えてしまう。

だから、最初から出来ないことを前提とした怪談で、出来たら不思議な何かがあるかもっていうオチ。

 

「・・・不思議な何かって何だよ」

「知らないし。何かがあるっていうのを考える怪談なんだから、答えはないんだよ」

「じゃあ、シュンさんはどこに行ったんだよ!?」

「誰だよ。ほら、ガクトさん待たせてんだから早く」

「っざけんな!何で誰も覚えてねえんだよ!?ナンバー2のシュンさんだよ!俺の派閥の親だよ!!」

「はぁ?何言ってんだ?ナンバー2はマキさんだろ?結構前から」

 

尋常でない取り乱し方に、僕はマンションに向かう。

電話は繋がったままだ。

 

「大体、お前らに四角い部屋の話をしたのもシュンさんだろぉが!?四月に、ガクトさん派とマキさん派とフリーのお前を含めて、ノルマ持ち合いの会議しただろ!?その席の雑談で四角い部屋の話しただろ?」

「おいおい、落ち着けって。何の話か分からないぞ。四角い部屋は今日初めて聞いたぞ」

 

確かに四月に会議をした記憶はある。

派閥間でノルマを分配し合うことにより、ノルマを達成できないという給金に影響を与える事態に陥るリスクを減らすのだ。

もちろん、提供できる余裕ノルマがある派閥の発言力が強い。

そして、それは大体の場面でガクト派だったりする。

派閥間では、これで貸しを作ったりする。

派閥の親は、派閥管理のためにも使う。

季節的理由で避けられない人員変動や、予見できない急な用事が重なった時に役に立つ。

 

「じゃあ何で今日、俺がガクトさんと一緒にいたのか、説明できるか?」

「それはお前・・・」

 

何でだ?

そういえば何でユウキはガクトさん派になったんだ?

揉め事起こしたわけでも、拾われたわけでもない。

俺は良い。

各派閥に影響力のある強力なコネを持っているから、基本的に派閥間移動はフリーだ。

ちょっかい出してくるヤツは表立ってはいない。

今日のような催しも招待される。

しかし、ガクトさんの派閥に入って日が浅いはずのコネもないユウキが、何故プライベートに近いこんなイベントに参加できるのか。

確か、確か、確か。

 

「答えられないのか?教えてやるよ。それが四角い部屋の謎だ。俺はガクト派になった覚えはねえ。入店してからずっとシュンさん派だ。だけど、今の俺は何故かガクト派だ。説明できる理由がねえ。それを誰も不思議に思わねえ。矛盾だらけなんだよ。シュンさんが四角い部屋に向かってから。だから俺も行く。行って四角い部屋の謎を解く」

「おい、聞いてるか?リョウ?今、八階だ。もうすぐシュンさんを助けられる。よっと、これであと一階」

「待て、言ってる意味が分からない。取り合えず戻れ、もっとちゃんと説明してくれないと分からない。シュンって誰だ?何でその人が四角い部屋に行くことになったんだ?何でシュンって人が四角い部屋に行ったこと知ってるんだ?」

「もうちょっと待ってろ、もう着く。よし」

「おい!? 止めろ!!」

「・・・くそ、完全ってこういうことかよ。確かにカンゼ――」

「おい!?返事しろ!冗談にしてはタチがわりぃぞ!!!」

 

ユウキの電話が切れた。いや、切れていない。

電話を掛けてすらいない。

音がなくなっただけだ。

通信が切れた後の音や、通話時間を示すものもない。

ただの待ち受け画面になっている。

リダイヤルのページを開いても、僕が最後に電話を掛けたのはガクトさんになっている。

掛かってきたのもガクトさん。

電話帳にもメール受信・送信欄にもユウキの名前はなかった。

 

何だこれは。

マンションに到着する。

急いでボタンを押す。

チンと音を立てドアが開くと、中の蛍光灯が点いた。

エレベーターには誰も乗っていなかった。

 

prr

ガクトさんだ。

 

「はい」

「おう、ついでに箱ティッシュとペリエ買ってきてよ」

「すいません。ユウキと連絡が取れなくなってしまって」

「ん?ユウキ?誰?」

「え・・・。いや、今日一緒に・・・」

「何? 遅いと思ってたら知り合いにでもあったのか。いーよいーよ。友達は大切にしな。だけど上司にもちょっぴり優しくしてくれると、睡眠時間と共に君への感謝が増える」

「ガクトさん、あの、シュンって人知ってますか?」

「誰? 同業?」

「いや、知らないならいいです」

「じゃ、頼んだ」

「すいません!あと一つ!四角い部屋って知ってますかっ!?」

「おいうるせぇって。眠いんだから耳元で叫ばないでくれよ。四角い部屋?はあ?部屋なんて大概四角だろ?なぞなぞ?」

「いや、完全に四角い部屋です」

「何だよ、その完全な四角って。意味わかんねえ。いいから早く来いよ、お待ちかねだぞお姉さま方」

その声と共に、リョウちゃ~んと甘い声が複数響く。

しかし、心は躍らなかった。

 

『四角い部屋』怖い話シリーズ49

怖異 恐子
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ゆきキャベツ

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