とある家族に訪れた怖ろしい話・・・
『良い子』
引越しをして半月程経ったある日・・・
『夜中におたくの息子さんが遊んでいたわよ・・・』
と、ご近所のHさんに言われた・・・
今回は怖ろしい怪談話『良い子』をお伝えします。
毎度おなじみ心霊界の石原さとみこと、コワイキョウコです・・・
今回のお話は・・・
なんか救いがない感じ・・・
ちょっと閲覧注意・・・(汗)
読み手の想像力も必要・・・
最高に怖くて面白かったと言う意見と、つまらなかったと言う意見で賛否両論・・・
そんな感じのお話です・・・(汗)
それでは怖い怖い怪談話・・・
『良い子』
どうぞお楽しみください・・・
※このお話は10分ほどで読むことができます。
『良い子』怖い話シリーズ137
引越しをして半月程経ったある日・・・
『夜中に家の前の道路で、おたくの息子さんが遊んでいたから注意しようとしたら、逃げて行ったわよ。』
と、ご近所のHさんに言われた。
しかし、うちの子が夜中に出歩くような事は無い。
毎晩寝る前には玄関の鍵はきちんとかけてるし、息子が寝たのを確認してから寝ているからだ。
『見間違いじゃない?』
『間違いなくおたくの息子さんだったわよ。』
『…』
翌日、家に見知らぬ番号から電話がかかってきた。
『○○○小学校のYと申します。Kくん(息子)の事でお話があるのですが、これから伺ってもよろしいでしょうか?』
三十分程して、電話の相手が訪ねてきた。
私と同じくらいの歳だろうか、小奇麗で整った顔立ちの女性だ。
『Kくんが夜中に外で遊んでいるのをPTAの○○さんが頻繁に目撃しており、事実確認の為に来ました。』
ご近所さん以外にも見ている人がいるのを知り、息子を問いただした。
「知らないよ。夜は怖くて外になんか出れるわけないじゃん。」
やはり息子では無いようだった。
夜になると一人で二階の自分の部屋には行けない怖がりな息子が、夜中に一人で出歩くとは考えられない。
仕方なく、今後は気をつけますと学校の方に謝罪した。
『じゃあ、僕遊びに行くね!』
息子が立ち上がり、走り去ろうとした時だった。
『熱っ…!』
息子がテーブルにぶつかった拍子にテーブルの上に置かれたコーヒーポットが倒れ、熱湯がYさんの手にかかった。
急いで応急処置をしたがかなり赤く爛れている。
『ほんとうにごめんなさい』
『いえいえ、私も不注意でした。お気になさらず。』
そう言ってYさんは帰って行った。
数日後、夜中にご近所のHさんから電話。
『また、おたくの子供が外にいるわよ。今度は一人じゃないみたいよ。注意しようとしたら一斉に逃げ出したのよ。一体どういう教育をしているの?』
道路に面した窓から外を見渡す。
誰もいない。
ただ、鍵をかけたはずの玄関のドアの鍵が開いていた。
まさかと思い、息子の部屋に行くと、息子は寝かしつけた時と同じポーズで眠っていた。
ご近所さんの見間違えだとホッとした反面、少し気味が悪い・・・
寝室に戻り再び眠りにつく。
「ピンポーン、ピンポーン」
チャイムが鳴った。
時計を見ると夜中の二時半。こんな夜中に誰?
眠い目をこすりながら階段を降り、インターホンのモニターを確認すると、髪の長い女の子が立っていた。
『誰?どうしたの?』
と、夫も目を覚まして起きてきた。
そして、女を見るなり、夫の顔が引きつった。
『おい…その子、見覚えないか?』
全く見覚えが無い。
誰なのか分からない。
夫は顔面蒼白になり、何も言わずに寝室に戻って行った。
誰が見ても怯えているのが目に見えて伝わってきたが、今はモニター越しの女が気になる。
『こんな夜中にどちらさまでしょうか?』
『……………………………………の…』
『え?』
インターホンでは声が小さくほとんど聞き取れない。
警戒しつつもチェーンをかけた状態で玄関のドアを少し開けた。
ゆっくりとドアの隙間から玄関先を見ると、女の子が立っていた。
長くボサボサの黒髪、痩せこけて華奢な手足、顔には無数の引っかき傷、靴は履いておらず、泥だらけの裸足。貧しい国の孤児、という表現がまさしく当てはまる風貌。
『どうしたの?大丈夫?』
『…』
問いかけても何も返事をせず、女の子はそのまま走り去った。
何が何だかよく分からない。
誰かの悪戯か?
考えても分からない。
あの女の子が誰なのか、夫に確認しようと寝室のある2階へ向かう。
『…痛っ!』
目覚めると1階リビングのソファで寝ていた。
頭がとてもズキズキする。
時計を見ると朝方7時半。
今から支度では小学校に遅刻してしまう時間だ。
急いで息子を起こしに2階へ。
息子はいつも通り、寝起きが悪く、文句ばかり言っているが、急いで支度してなんとかいつもの時間に送り出す事が出来た。
ん?
あれ?
夫は?
いつもなら夫が朝6時頃に起床し、私と息子を起こすのが習慣となっているが、今日は夫が起こしに来なかった。
おかしいな。
具合でも悪いのかなと思い、寝室にいる夫を起こしに2階へ。
???
誰もいない。
早起きして既に会社に向かったのかと思ったけど、行ってきますの一言も無かった為、携帯に連絡をする事に。
「~~~~♪~~♪~♪」
着信音は寝室から聞こえる。
夫の携帯はベッドの横に落ちていた。
夫が携帯を忘れる事はそんなに珍しい事でも無かった為、きっと焦って出かけて忘れたんだ。
そう思い、そこまで心配はしていなかった。
しかし、夜中になっても帰って来ない。
念の為、夫の実家にも連絡をした。
『システム系の仕事だし、きっと障害対応で泊まりなんじゃない?』
『それならいいんですけど…』
『きっと、携帯を家に忘れたから連絡が取れないだけでしょ?仕事場に携帯持込禁止だったはずよ』
『そういえば…そうでしたね。』
明日には帰って来るだろうと思い眠りについた。
翌日になっても帰って来ない。
夫の忘れた携帯のメモリから、勤め先に電話をかけてみた。
『Tさん(夫)なら昨日今日と無断欠勤してますよ!仕事の引継ぎも無しで本当に良い迷惑ですよ!戻られたらすぐに連絡するよう伝えて下さい!』
怒鳴りつけられてそのまま電話は切れた。
結局、夫が帰ってこないまま3日が経った。
夫の家族も大騒ぎになり、警察に届け出る事になった。
『以前にもこのような事はありましたか?』
『一度もありません。』
『何処か行きそうな所に心当たりは?』
『ありません。』
『何か悩んでいるような事はありませんでしたか?』
『ありません。』
本当に夫が家を出て行く心辺りなんて何一つ無い。
ただ、あの女の子が家に来たときの夫は、出会ってから一度も見たことの無い表情をしていた。
一応、刑事さんにあの夜の事を話した。
『で、その女の子に見覚えは?旦那さんとの接点は?』
色々聞かれたが、進展するような事は何も無かった。
あれから2ヶ月ほど経ったが、夫は帰ってこず、連絡も無い。
警察にも定期的に足を運んだが、有力な情報は無く、ただ待つしか無いとの事。
夕刻。ご近所のHさんが慌てた様子で話しかけてきた。
『Sさん!Sさん!いたいた!さっき○○公園に旦那さんがいたわよ!声を掛けたら、自転車に子供を乗せて走り去ってったけど…』
私は急いで○○公園に向かった。
到着した頃には既に夫の姿は無く、公園には見知らぬ子供とその親だけ。
手当たり次第、夫の事を聞いてまわったが、誰も夫の事を見ていないようだった。
気が付けば辺りは真っ暗になっていた。
もうこんな時間か。そろそろ息子が帰ってくる。
…ん?
その時、気づいた。
息子はご近所さんから夫の話を聞いた時、向かいの家の友達と一緒に遊んでいた。
夫が自転車に乗せたのは息子だとばかり思い込んでいたが、違う。
夫が連れていた子供は一体誰?
まさかあの女の子なの?
一体何をしているの?
帰宅すると家には誰もいなかった。
夫も、息子も。
向かいの家にまだいるのか伺ってみると、私が急いで○○公園に向かった時に、息子もすぐ後を追いかけて行ったとのこと。
どうやら行き違いになったようで、再度、○○公園に向かおうとした時、遠くから息子が走ってくるのが見えた。
『おかえり!さっきは急にいなくなっちゃってごめんね!』
息子は何の返事もせずに、全力で私の横を通り過ぎると自宅に入って行った。
「ガチャ、ガチャ」
え?
息子が玄関の鍵をかけた。
『ねぇ!何で鍵かけるの?!開けてよ!』
『だって、追いかけてくるんだもん!』
『何が?!』
『いーこ』
『良い子?』
『いーこはいーこだよ!』
『あ~もう意味分からない!とにかく玄関開けてよ!』
『ママ…』
『ん??』
『いーこ来ちゃった。』
『どこに???』
『…ママのとなり』
左右を見ましたが、もちろん何も居ない。
『何もいないよ?』
『まだいるよ。だって画面にうつってるもん』
『…もういいからとにかく開けて!』
『…』
『?』
『わーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!』
『どうしたの?!』
息子からのインターホン越しの返事が無くなった。
どうにかして家に入ろうと1階の窓や勝手口を確認するが、戸締りはバッチリ。
もう2階から入るしかないかと思い、2階のベランダを見上げると…
ベランダに息子が全裸で右足の靴下だけ履いた状態で立ってた。
小さい声で何かをブツブツ言っている。
全く聞き取れない。
そして次の瞬間。
「どさっ」
「…」
ベランダから落下。
左足の膝の辺りから、折れた白い骨が突き出ている。
どう見ても動けるような状態じゃないのに、息子はそのまま立ち上がった。
まるで何事も無かったかのように歩き出す。
息子は私の隣まで来ると耳元で小さな声でつぶやいた。
『…パパに突き落とされた。次はママの番』
そう言って息子は笑っていた。
ずっと笑い続けていた。
私は、しばらく放心状態だったようで、息子の落ちた音に気がついたお隣さんが救急車を呼んでくれた。
救急車の中では息子が死んでしまうのではと、ずっと泣き叫び続けた。
幸い、怪我は左足の骨折だけで、手術も無事に成功し、他に外傷は無く、全治3ヶ月。
ただ、背中に赤黒い小さい痣が無数にあったらしく、
『息子さん、学校でいじめられてませんか?』
『そんなことは無いと思います。昨日もお風呂上りに背中を見た時も、痣なんてありませんでした。』
『そうですか…』
医者は何か言いたそうでしたが、話はそこで終わった。
息子の無事に安堵したが、一体なんでこんな事になったの?
本当に夫が突き落としたの?行方不明なのに?家にもいなかったのに?
意味が分からない状況に頭がおかしくなりそうだった。
私が考えても何も解決しそうにない。
息子の意識が戻り次第、聞こう。
そして事故の翌朝…。
息子が病室から消えた。
看護士に聞いてもそんな子供は入院してない、見てないの一点張り。
必死に訴えかけても本当に知らないような素振りをされたので、仕方なく家に帰る事に。
帰宅すると、カーテンから明かりがもれている。
カーテンの隙間からリビングを覗き込むと夫と息子が肩車をして遊んでる。
だけど様子がおかしい。
息子は大怪我をしたはずなのに左足には何の怪我もしてない。
そして何よりも、夫が戻ってきた事に驚いた。
急いで玄関に向かい、ドアを開け、リビングに駆け込む。
『一体、今まで何処に…』
言いかけてやめた。
真っ暗なリビングには誰もいない。
『隠れんぼしてるの?!』
お風呂場?
誰も入ってない。
『ねぇ!何処にいるの?!』
トイレ?
誰も入ってない。
『悪ふざけはいいかげんにしてよ!!』
寝室?
誰も寝てない。
『…』
子供部屋?
『…』
いた・・・
誰かが息子の二段ベッドで体育座りをしてる。
部屋の電気を付けようとしたが付かない。
廊下から漏れる明かりでかろうじてシルエットだけ確認できる。
『誰?ママ?』
息子の声だ。
『そうだよ。どうしたの?』
『パパとママを探してるんだ。』
『ここにいるよ』
私はそう言って息子を抱きしめた。
『本当にママなの?』
『当たり前じゃない。わからないの?』
『うん。だって何も見えないんだもん』
『え?』
息子を抱きかかえたまま、廊下に出る。
『…えっ!どうしたの!』
明かりの下で息子を見た瞬間、叫んでしまった。
息子は両目が無かった。
両目があるはずの窪みにはくしゃくしゃに丸められたハンカチが詰め込まれている。
息子の目から流れ出たであろう血を吸い込み、どす黒く変色したハンカチ。
次の瞬間。
『バイバイ』
息子に押され、バランスを崩し、階段を転げ落ちる。
真っ白な天井、真っ白なカーテン、真っ白なベッド。
目覚めると病院の一室。
病室の入り口のドアが開く。
息子だ。
普通に歩いてる。
もちろん目もある。
息子の怪我は夢だったの?
とにかく無事ならそれでいい。本
当に良かった。
『ママおはよう。』
『おはよう。』
『具合は大丈夫?』
『うん。ちょっと頭が痛むけどね…』
『パパもずっと心配してるってよ』
『パパが?!帰ってきたの?!』
『電話があったの。』
『いつ?!』
『わかんない』
『え?』
急にめまいがした。
たぶん貧血。
意識が飛びそうになる。
『Sさん。ちゃんと薬飲んで下さいね。お昼の分まだ飲み終わってないですよ。』
いつからそこにいたのか、看護士が隣に立っていた。
『Kくん。おかあさんはこれからお薬飲んでお休みするから。外でおばあちゃんと待っててね』
『わかった!』
そう言うと息子は病室を出て行った。
手渡された薬を飲み、目を閉じる。
すぐに意識は朦朧とし、眠くなる。
『…今度は邪魔しないで下さいね。』
耳元で誰かが囁いた。
何処かで聞いた事のある・・女の声・・・
真っ白な天井、真っ白なカーテン、真っ白なベッド。
目覚めると病院の一室。
ベッドには息子が寝ている。
付き添いながら眠ってしまっていたようだ。
左足を骨折した息子は、寝にくそうな体勢で眠りについてる。
「ぐぅ~」
お腹が鳴った。
そういえば昨日から何も食べてない。
息子が起きないよう、握っていた息子の手をゆっくりと離し、病室を後にする。
ここの病院は食堂のラーメンが美味しいと評判だった。
太麺でコシのある醤油ラーメン。
注文したラーメンを食べて一息つく。
何だか色々な夢を見たなと思いつつ、息子の待つ病室に向かう。
ん?
何だろう?
息子の病室の前に人だかりができている。
あれは…警察?
息子に何かあったの?!
私に気が付いた看護士が走って近づいてくる。
『Sさん!息子さんが!』
『どうしたんですか?!』
『緊急で手術をする事になりました…』
『どうして?!足以外には何も怪我もしてなかったはずじゃ?!』
『それが…。うっ…。』
看護士は何かを思い出したかのように、口元を押さえた。
『目が…』
『目?』
『息子さんの両目が無くなっていたんです。』
『え?意味が分からないんですけど…』
隣にいた刑事が話し出した。
『眠っている最中、麻酔をかけられ、両目を取られたようです。奥さん。何か心辺りはありませんか?朝まで一緒に息子さんの病室にいたそうですね。』
『はい。いましたけど何も…。一体誰がそんな事を…』
『…』
数時間後。
両目を包帯で隠された息子は命に別状は無いとのこと。
しかし、失ったものはあまりにも大きすぎる。
これから先、息子は何も見ることが出来ない。
動物園、水族館、映画館、遊園地、好きだったアニメにゲーム、私の顔、パパの顔、そして自分の顔…
『ママがずっと側にいるからね』
『…』
他に何て声をかければ良いのか全く思い浮かばない。
息子を安心させるための言葉よりも先に涙が出てきて声にならない。
夫と出会い、結婚。
息子を出産。
念願の一戸建ての購入。
誰がどう見ても平凡で幸せそのものだった。
それなのにどうしてこんな…。
「ブー、ブー、ブー…」
バッグの中の携帯が鳴っている。
ご近所さんからだ。
『もしもし』
『あ、Sさん?!ちょっとおたくのお庭が大変よ!今すぐ来て!』
『何がですか?』
『…』
電話が切れた。
『ちょっと、おうちに戻るね。お着替えとか持ってくるね。何か食べたいものはある?』
『…お水。飲みたい。』
『わかった。ちょっと待っててね』
息子に水を飲ませて病院を後にした。
自宅の前は人だかりができている。
息子の病室の出来事がフラッシュバックし、気分が悪くなる。
ご近所さんが集まって庭の前で騒いでいる。
『何だろうねこれ?』
『気味が悪いね』
『悪戯かしらね』
『あ…』
『Sさん戻ってきたよ…』
『Sさんだ…』
『本当だ…』
私に気が付いたらしく、みんなの視線が突き刺さる。
『ちょっとこれ見てよ』
『昨日までは無かったんだけど』
『さっき通り過ぎたらあったのよ』
『…』
駐輪場の中央に、黒髪で赤い服を着た人形が置かれている。
体育座りをした人形の目は見開き、腹部に包丁が突き刺さり、周囲には血溜まりが出来ている。
悪戯にしては相当タチが悪い。
誰がこんなこんな事を…。
人形に近づき、持ち上げる。
『ぁ。』
持ち上げた拍子に、何かが足元に落ちた。
目玉だ。
人形の目玉が駐輪場のわずかな傾斜をころころと転がる。
それを拾い上げようとした時だった。
?!
違う…。
これは…。
人形の目玉だと思って触ったそれは、軟らかく程よい弾力があり、黒目の反対側に筋のようなものがある…
紛れも無く人間の目玉だった。
『これってまさか…息子の…』
意識が遠くなり、私はその場で気絶した。
騒がしい音に目を覚ます。
見たことも無い家具や装飾品の飾られた部屋。
ここはどこだろう?
『あ、気が付いた?』
ご近所さんだ。
私が倒れた後に運んでくれたらしい。
『警察がSさんの庭を色々調べてて、野次馬がわーわー騒いでるのよ。』
窓から外を見ると私の家の庭にテレビドラマで良く見る光景が広がっていた。
部下に何か指示をしている黒いコートを着た刑事。
帽子を被ったおそろいの服装で人形が座っていた駐輪場を調べる男。
庭を囲むように集まってきた野次馬たち。
『血が本物とか、目玉は鑑識にまわすとか話し声が聞こえたんだけど、どう見ても事件だよね?それともドッキリ?』
ご近所さんは他人事のように目をきらきら輝かせながら言った。
『ここまで大騒ぎになったのは初めてよ。インタビューとかされちゃうかな?お化粧しておかなきゃ!』
そう言って、ご近所さんはソファに座りながら、メイクを始めた。
『ほら、数年前にバスの乗員乗客が全員亡くなった事故があったじゃない?』
子育てに追われ、あまりニュースは見ていなかったが、その事故は覚えている。
『その事故の被害者の家族が近所に住んでてね、マスコミがよく来てたのよ。実はその時、私もインタビューされたの!録画してあるから、今度見せてあげる!』
当時を思い出したのか、ご近所さんは興奮冷めやらぬ様子だ。
リビングから駐輪場をじっと見ていると、黒いコートを着た刑事と目が合った。
目が合うなり、一直線にこちらに向かってくる。
『Sさんですね。ちょっとお話いいですか。』
刑事には「夫の失踪」「失踪前夜に現れた女の子」「息子の骨折」「息子の両目」「駐輪場の人形」について一通り話し、後日、以下の事が分かった。
「駐輪場の人形」の目玉は人間の目玉だったが、息子の目玉では無かった。
駐輪場の血溜まりは人間の血で血液型はB型。
私はO型、夫と息子はA型なので、私たち家族のものでは無かった。
包丁からは犯人と思わしき指紋が検出されたが、前科者の仕業ではないようで犯人特定は出来ていない。
結局のところ、現時点ではまだ何も分かっていないそうだ。
息子の退院日。
両目を閉じ、うつむいた息子の手を引き、自宅に帰る。
いつも元気で、うるさくて、怒られてもニコニコで、とにかく活発だった息子。
それが今では・・・
事故前後の息子のギャップが見ていて辛い。
『ママ?』
『なぁに?』
『僕は、いーこ?』
『当たり前じゃない。良い子だよ。本当に良い子。自慢の息子だよ。』
『そっか…』
『どうしたの?』
息子は泣いていた。
『ママ…。おめめが無くても涙は出るんだね…』
私は無言でとにかく息子を抱きしめた。
「代われるものなら代わってあげたい」
そういう言葉をよく耳にするが、正にその通りだ。
息子の目が見えるようになるなら、私は喜んで両目を差し出す。
息子の事は何があっても守り抜く。
たとえ命と引き換えであっても…。
そう心に誓っていたが、本当にこの先ずっと守ってやれるのだろうか?
私は40歳で息子を産んだ。
もう若くない。
息子が大人になる頃には60歳のおばあちゃん。
確実に息子より先にこの世を去る事になってしまうのに、両目も見えない、両親もいない息子は、この先どうやって生きて行けば…。
だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。
考えれば考える程、不安が募るだけだ。
とにかく今は明るく、息子が安心できるように振舞わなければ。
「ピンポーン」
誰か来た。
モニターには宅配員の姿。
『ママ。お水ちょーだい…』
『お水ね。はいどうぞ。』
息子にお水を渡してから、玄関に向かう。
『こちらに印鑑を…ありがとうございました!』
『どうも~』
荷物が届いた。
差出人はご近所のHさんだ。
家が近いんだからわざわざ宅急便で送らなくても良いのに。
ダンボールには「こわれもの注意」のシールが貼られている。
大きさの割にやたらと重い。
何が入っているんだろうとカッターで封を切り、箱を開ける。
?!
箱の中には「夫だったもの」が入っていた。
夫の鼻から上、頭部の半分がぴったりと収まっていた。
目の部分はぽっかりと空洞になっており、目玉が抜き取られている。
首の切断面からはうじ虫が大量に沸いている。
とてつもない異臭と、ありえない光景に、私はその場で嘔吐した。
「バタッ」
後ろで物音がしたので振り返る。
息子が胸を押さえながら苦しんでいる。
『どうしたの?!どこか痛いの?!』
『僕は…いらないこどもだから…ママにとって…いるこになるの…』
ピタリと息子の動きが止まった。
『何で…』
夫と息子が私の中から消えた途端、理性が完全に壊れた。
絶対に許さない。
許さない。
包丁を手に、Hさんの家に向かう。
「ピンポーン、ピンポーン」
何度鳴らしても出ない。
『早く出て来いよ!さっさと出て来い!』
大声で叫んでいると異常に気が付いたお隣さんが出てきた。
『Sさんどうしたのそんな大声出して?』
『Hさんに用があるんだけど出てこないの!』
『え?Hさん?HさんならSさんが引っ越してくる前に亡くなってるわよ…』
『嘘だ!私は何度もHさんと会ってる!』
『そんなこと言ったって本当にもう亡くなってるのよ!ちょっと待ってて。』
そう言うとお隣さんは自宅に戻った。
数分後。
一枚の写真を持って再び出てきた。
『Sさんの会ったHさんはこの人で間違いない?』
写っている女性を確認する。
『ちが…う…』
『ね?Hさんはもういないの…』
『じゃあ、私が会っていたHさんは一体…』
後日談
結局、それ以来Hさんに会う事は無かった。
もう二度と会えないと確信している。
Hさんの住んでいた家からは3人分の死体が発見された。
床下収納に私の夫の首から下。
押入れのダンボールからは2人の女の子の首から下。
まだ首が2つ見つかっていない…。
息子の死因は毒物だった。
手に握られた包みと息子から検出された毒物が一致。
自殺だ。
どうしてあんなにも近くにいながら救えなかったんだろう…。
夫の会社にあった私物から日記が見つかった。
私と結婚する以前から書き続けていたようだ。
過去に私以外の女性と結婚して、子供もいたらしい。
他にも色々な女性と関係を持っていたようだ。
私と出会ってから女性達との関係を断ち切ったが、しつこく付きまとわれた為、引越しを余儀なくされた。
その結果、購入したのが、今、私が住んでいるこの家。
一人には広すぎる。
でも、もうすぐ…。
大きくなったお腹をさすると、自然と笑みが出てくる。
『将来、もう一人は子供が欲しいね。』
『今度は女の子がいいな。娘と一緒にお洋服とか買いに行きたい!』
『あのさ。引越し先、マンションが良いって言ってたけど、一戸建てにしない?子供部屋が2つは必要になるし、Sの好きな家庭菜園が出来る広い庭付き。夏は子供用のプールを置いて、にぎやかにはしゃぐ子供たちの笑顔が見たい』
『うん!』
『俺、これからも頑張って働くからさ。』
後日、一通の封筒が届いた。
宛名も宛先も何も書かれていない。
直接郵便受けに入れたのだろう。
開くと中には一枚の写真が入っていた。
家族写真だ。
私の夫と息子が写っている。
右側に写っているのは私ではなくHさんだった。
私の顔を黒く塗りつぶし、その上からHさんの顔写真が貼り付けられていた。
写真をテーブルの上に伏せた時、裏面に何か書かれていた。
「すぎもとさま
いかがおすごしでしようか
あれからにねんたちますね
たかゆきのせいでむすめはしにました
イラナイコドモなんていうからあのこはしにました
わたしとむすめをすてたおとこ
しんでもしかたないです
こどもをうしなうきもちはどうですか
くすりでくるしまずにしんだか
わたしつらいです
あなたもつらいです
ふくしゆうできた
ごめんなさい
わたしもやつとむすめのところいけます
ありがとうさようならございます
ひようどう」
『良い子』怖い話シリーズ137
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